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ヘルスケア分野と異業種との境界領域最適化

非常時医療事業継続計画Medical Business Continuity Plan (m-BCP)

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オーバーシュート - 感染拡大の恐ろしさ -

オーバーシュート

 "overshoot"を感染症の場で使う場合『爆発的患者急増』と訳します。

 感染症が流行している事には気づいていても、我が身の事と捉えずに保菌者が市中に出歩き、また保菌者が身近にいる事にも気づかずに感染が拡がっていくとやがて指数関数的に患者が増え、オーバーシュートが発生します。

 オーバーシュートの前にアウトブレイクやクラスター感染などの兆候が見られることがありますが、前兆が散発的で気づかないうちにオーバーシュートに至ることもあり得ます。


厚生労働省: イベントの開催に関する国民の皆様へのメッセージ (2020年3月20日・安倍総理)
厚生労働省: 新型コロナウイルス感染対策専門家会議 『新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言』 (2020年3月19日)
厚生労働省: 医療機関における院内感染対策について, 医政地発1219第1号 (2015年12月19日)
厚生労働省: 医療機関等における院内感染について, 医政指発0617第1号 (2011年6月17日)



パンデミック

 人々に免疫力が無く、治療法も確立されていない場合に世界的大流行(パンデミック)が起こるリスクが高まります。

 新型インフルエンザに関する政府の被害想定は以下のような数字です。

○発症率:全人口の25%
○医療機関受診者数:1,300〜2,500万人
○死亡者数の上限:17〜64万人
○従業員の最大40%程度が欠勤(2週間程度継続する見込み)

 これが発生する期間にもよりますが、オーバーシュートの状況に近いとみられます。

政府広報オンライン: 新型インフルエンザの発生に備えて (2018年11月8日)
WHO: Coronavirus disease (COVID-19) Pandemic



感染拡大予防

 感染の拡大予防には様々な対応があります。

 コロナウイルスやインフルエンザウイルスなどでは『3つの密』を避けることで、感染のリスクを低減できるとされ、啓発活動が行われています。

 この他、うがいや手洗い、咳エチケットなど感染対策の基本については首相官邸のウェブサイトにわかりやすく解説が掲載されています。

首相官邸: 新型コロナウイルス感染症に備えて 一人ひとりができる対策を知っておこう





オーバーシュートの機序

感染拡大

 家族間など濃厚接触者による数人規模での感染が散発的に発生している段階では、感染経路が明確であり、防衛策や治療が奏功しやすい段階にあります。

 菌やウイルスなどの病原体が体内に取り込まれなければ感染しないため、感染するにはどこかで病原体と接触する必要があります。

 保菌者が、保菌者であることを自覚していない場合、例えば潜伏期間や無症状の場合は菌を他の人へ移してしまう可能性があります。
 その保菌者の活動範囲が家庭内など限定的であれば範囲は狭くなりますが、通勤通学で公共交通機関を利用し、学校や会社などのコミュニティに参加し、居酒屋やカラオケで楽しめば、感染の可能性を広げることになります。

 特に社会活動が活発な人々が保菌者になると、あちらこちらで感染者を増やすことになるため、感染拡大のスピードは速くなります。



集団感染

 1人から数人に、数人から数十人に伝染することで感染は拡大します。

 不特定多数の人が密に集まるような場所では、拡散性の高い集団感染が起こりやすくなります。

 ライブやスポーツ観戦では観客同士の距離が近く、気分が高揚して歓声をあげたりハイタッチをしたり、数時間の濃厚接触で感染しやすい状況になります。
 フードコートでは注文時には近接し、食事中はマスクを外しており、混雑時は隣との距離も近くなるので、感染しやすい状況になります。

 ライブやスポーツなどで感染した人は、それぞれに異なるコミュニティに参画していますので、保菌者として新たな感染を引き起こします。
 1人が5人に伝染し、5人が異なるコミュニティで3人ずつ伝染させれば15人増加、このようにして患者が増加していきます。


厚生労働省: 新型コロナウイルスの集団感染を防ぐために



絶対数が増えれば....

 1人が伝染させられる人数は多くても十数人程度だと思います。
 100人が1日に1人ずつ伝染させても100人の増加、複数名に伝染させれば数百人の増加となります。その数百人が次の感染拡大の要因となれば数日から数週間で感染者は1万人規模になります。

 じわりと増えるにしても、一気に増えるにしても、元となる人数が多ければその可能性は高くなります。



医療崩壊

 仮に国民の1万人に1人が新規の感染症患者として外来受診すると12,500人の患者増です。1千人に1人なら10倍の12万5000人の患者増です。

 12.5万人の1%が重症化して1週間入院すると、1週間後には1万人近い患者が感染症で入院している事になります。
 高齢化率25%超の日本では、重症化リスクが高くなりますので、入院患者数は更に増えると予想されます。

 医療崩壊は外来から起こるか入院から起こるかはわかりませんが、いずれにしても医療の供給体制を上回る患者が発生すれば医療崩壊は起こり得ます。

総務省統計局: 人口推計
厚生労働省: 新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言(3月19日), 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の見解等



医療崩壊:外来

 ある1日の外来患者数は約700万人、その内感染症患者は約17万人です。
 感染が広がると不要不急の受診を避ける患者が増えるので、恐らく外来患者数は一時的に減少しますが、感染症患者は増加します。

 感染症を診られる医師や検査設備が整っている医療機関は限られ、更に入院までできるとなると限定されます。そこに患者が集中すれば、平時に診ている全ての疾患を断っても24時間患者が絶えない外来になると考えられます。

 1日は1,440分、不眠不休で3分間診療したとしても1日480人が限界です。

 季節性インフルエンザなど迅速検査キットが普及している感染症であれば市中のクリニックなどでも診断と治療を行えますが、新しい感染症の場合、肺炎であるという診断ができても原因を特定することが難しくなります。

 必然的に、対応可能な医療機関に患者が集中し、休診日も休診時間も無くして医療従事者が働いても、それ以上に患者が発生し続ければ、医療体制の維持は精神論に依存することになります。

厚生労働省: 患者調査



医療崩壊:入院

 患者の発生が人口や人口密度に相関するかはわかりませんが、厚労省の調査にある『人口10万対病院病床数』は1つの参考になります。
 一般病床の多い県は高知や大分など約1,000床、少ない県は埼玉や神奈川など約500床、その比は2.2倍になります。

 東京都の人口は約1,400万人、神奈川・埼玉・千葉の合計が約2,300万人、この大都市圏で入院が必要となっても入院できるベッドが無い状態になります。国民の3割が集中する1都3県で『防ぎ得た死』が増加する可能性があり、そのインパクトは日本国全体に波及すると考えられます。

 2020年3月時点で感染症指定医療機関のECMO保有台数は600台、その8割が感染症に回せるとして約500台ですので1万人という患者には対応できません。人工呼吸器もさほど余剰がある医療機関は少ないので、同様です。
 入院できたとしても必要な治療を受けられない可能性があります。

厚生労働省: 医療施設調査

厚生労働省: 体外式膜型人工肺 ECMO (Extracorporeal Membrane Oxygenation) エクモ (2020年3月3日)



医療崩壊:持込

 患者殺到で需給バランスが崩壊することは前述のとおりですが、感染症を診ない医療機関でも感染症が持ち込まれ医療崩壊が起こる可能性があります。

 一般市民からみて感染症指定病院や災害拠点病院がどこであるかはわからないのが普通であり、『帰国者・接触者相談センター』の利用方法も熟知しているとは限りません。

 ふと訪れたクリニックや、普段から通院している整形外科病院に『熱がある』と来院する事も想定され、そのような患者から伝染してしまい、いつの間にか院内に感染が広がって外来・入院が閉鎖、ただでさえ足りない病床がさらに不足するという地域崩壊的な悲劇を招くかもしれません。

 昭和の感染症というイメージも残る結核ですが、2018年の新規患者数は15,590人、1日平均42.7人の新患増加があり、結核専門ではない医療機関でも外来で発見されることがあります。BCGワクチンの接種率が高いので医療従事者が感染してしまう事は少ないですが、これが感染力の高い疾患であれば、そのリスクは非常に高いものになります。

厚生労働省: 新型コロナウイルスに関する帰国者・接触者相談センター

厚生労働省: 平成30年 結核登録者情報調査年報集計結果について





拡大抑止

抑止

 感染拡大やオーバーシュートを抑止するためには、様々な方法があり、1つだけ奏功しても抑止できるとは限りません。



接触抑止

 感染が広がっている段階では『自粛』というレベルですが、感染が拡大しオーバーシュートの危険が迫れば『ロックダウン』という措置も考えられます。

 医療と食料以外の店舗は休業、一般企業は在宅勤務、不要不急の外出は禁止されます。


New York State: Governor Cuomo Signs the 'New York State on PAUSE' Executive Order (ニューヨーク州自宅待機命令, 2020年3月20日)
北海道庁: 新型コロナウイルス緊急事態宣言 (2020年2月28日)



予防接種

 感染者を増やさないために、予防接種を励行します。

 まずは医療従事者、警察、消防、エネルギー、交通、その他の重要インフラ関係者に優先的に施行されます。

 免疫効果が出るまでに時間がかかりますが、有効な手段です。


内閣官房新型インフルエンザ対策室: 新型インフルエンザ等対策有識者会議(第17回) 資料2-2, プレパンデミックワクチンの今後の備蓄方針について (2019年5月23日)



診療

 感染してしまえば、治療するしかありません。
 感染しているか否かは、検査などの診察をしてみなければわかりません。

 検査法や治療法が確立され、適正な治療や隔離により感染を拡大させない、死者を出さないというレベルが維持できれば、仮にオーバーシュートしてもいずれは抑制できます。

 危険なのは、医療崩壊が起こった場合です。





医療供給体制の立て直し

供給力追加・補完

 医療の需給バランスが崩れ『医療崩壊』が起こるとすれば、需要を減らすか供給を増やせば改善が期待できます。

 感染者を増やさない、適正な治療を提供することで患者の絶対数を抑制することについては先述のとおりです。

 医療は規制産業ゆえに、開業も入院病床数も国の規制を受けています。医薬品や医療機器も、スタッフも免許や許認可が必要です。
 ゆえに、医療は容易に供給量を調整できないのですが、緊急事態に対しどのように供給量を追加するか私見を中心に示します。



遠隔診療

 医師は難関と言われる医学部へ入学し、6年の課程を卒業して医師国家試験に合格し、その後の修練を経て何らかの専門を持って仕事をしています。
 1〜2年の短期に絶対数を増やす事ができない人材です。

 医師は診療科などの専門があるため、全ての医療機関が同じ診療を行う事ができる訳ではありません。
 感染症を診療できる医師数が、診療を行わなければならない医療機関数や病床数とミスマッチが発生する場合、遠隔診療で全国各地の需要に応じていくことで医師数の問題を解消できるかもしれません。

 遠隔診療では医師が患者を診療するだけでなく、現地の医師や看護師へ助言や指示をして適正化することも含まれます。



潜在ナース

 看護師免許を保有しているが、看護師として働いていない生産年齢の看護師数は70万人以上居ると言われています。
 その看護師を『潜在看護師』『潜在ナース』などと呼びます。

 潜在看護師の10%が復職すれば新規免許取得者を数で上回り、また一定の経験がある分、採用時研修の手間を省き即戦力として期待する事ができます。
 即戦力ではありますが、休眠中のブランクを埋めてもらうために病棟や外来などでチームの一員として働きながらOJTを進める事が安全・安心につながると考えます。

 病棟等に看護師が増えた分、そこに居た現任看護師を感染症の急性期医療の現場に配備することで、全体のバランスが取れるのではないかと考えます。

 数の上での調整が可能であっても、個人のスキルや生活、やりがいなど働き方を考慮しなければこのような臨時対応は上手くいかないのが常ですので、マッチングを采配できるマネジャーの存在も不可欠であると言えます。

厚生労働省: 広報誌「厚生労働」 特集 看護師等免許保持者の届出制度とナースセンター活用術



廃屋再生

 物理的に診療の場が足りない状況が発生することが想定されます。

 国の『新型インフルエンザ等対策ガイドライン』によれば、入院病床確保の第一選択は感染症指定医療機関および結核病床を有する医療機関などとされていますが、医療機関の収容能力を超えた場合には臨時の医療施設を配備することが都道府県の管理下で行われます。

 臨時の医療施設としては以下のようなものが想定されています。ガイドラインの135〜136ページに以下の記載があります。

○既存の医療機関の敷地外などに設置したテントやプレハブ
○体育館や公民館などの公共施設
○ホテルや宿泊ロッジなどの宿泊施設

 臨時の医療施設の設置には、以下の条件を考慮する必要があるとされていますが、『必ずしもこれらの条件を全て満たす必要はない』とも記されていますので、必須要件ではありません。

○医薬品・医療機器等や医療従事者が確保sれること
○多数の患者の宿泊が可能なスペース、ベッド等があること
○化粧室やシャワーなど衛生設備が整っていること
○食事の提供ができること
○冷暖房が完備していること
○十分な駐車スペースや交通の便があること

新型インフルエンザ等対策ガイドライン

厚生労働省: 新型コロナウイルス感染症患者に対応した医療体制に関する補足資料の送付について(その4), 医政局地域医療計画課, 健康局結核感染症課(2020年2月13日)




簡易陰圧

 感染症の治療現場で常用されている陰圧室は、患者から出る病原体を部屋の外に漏らさないために、病室を廊下等より陰圧にします。

 新築工事であれば1室ずつ設計し、エア漏れのない機密性ある壁や天井の施工と、排気/給気のバランスで陰圧を維持することができます。

 臨時・仮設の医療施設には費用や時間をかけられないため、簡易的な設備で急場をしのがなければなりません。
 陰圧設備は無くても診療ができますので、設置しないという選択肢を考えつつも、何かできないかという場合の一案として検討しました。

有圧扇を用いたエリア陰圧

 有圧扇とは、厨房や作業場などに設置される換気扇の一種です。
 その名の通り『圧』を生む特徴があり、多少の負荷がかかってもその能力は落ちません。

 例えば中華料理であれば、油や煙が客間に流出しないように、厨房を有圧扇で低圧化します。
 自動車整備工場では、排気ガスを事務エリアや塗装エリアなどの他のエリアに行かせないために有圧扇で空気の流れを造っています。

 臨時の診療エリアに有圧扇を設置することで、他のエリアより低圧なエリアを造作することが可能になると考えます。
 給気側にはフィルターを入れることで、汚れの少ない空気を診療エリアに送り込み、患者が放つ病原体は有圧扇によって屋外へと排気されます。










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