医療機関や福祉施設の『減災』についてご紹介するシリーズです。今回は『小児科』にフォーカスします。

小児科の特徴
小児科は、当然ながら小児中心の医療です。一般的には中学生頃までが小児科受診となりますが、先天性疾患や小児に多い難病などは20歳を過ぎても小児科で診ていることも少なくありません。
自ら痛みや苦しみを訴えることが難しい年齢層であるため、発熱や嘔吐などで近医受診ということも多くあります。
小児病棟を持つ病院では、長い付き合いになっている患児も少なくありません。自宅療養に切り替えることができても、入院を避けられない児が居ます。
患者(患児)本人だけでなく、保護者や家族が診療に参加するケースが多いことも小児科の特徴であると言えます。
健常ではない弱者であると同時に、年齢的なことから判断や行動が大人並みではないこと、患者の数と同等数の付き添いが院内に居る可能性があることなど、減災においては多角的な視点が必要であることが特徴です。

脅威
総合病院内の1つの診療科としての小児科、外来専門の小児科クリニック、こども病院などその規模や事業によって脅威は大きく変わります。
小児医療における減災には、脅威分析が不可欠です。
『大は小を兼ねる』とは、大きい物は小さい物より用途が広いといった意味があると思います。医薬品は用量を調整することで大人用を子供に投与できる場合もありますが、小児専用でなければならない物も多くあります。
狭い気管や細い血管に、太い管類は入りません。ブカブカのオムツでは排泄物を漏らさず処理することは難しいです。
すなわち、小児専用品を使うべき場面で、その物品が無い場合には診療継続の妨げになる可能性があります。
自ら考えて行動するほど成長していない患児らは、火災報知器が鳴動しても適正な行動はできません。反対に、興奮や混乱により思わぬ行動に出てしまう恐れもあります。
患児たちを制し、安全を確保するためのマンパワーが不足すれば、それだけでも脅威です。そこにマンパワーを割いたがために適正な診療ができなくなることも脅威です。
こども病院では、重篤な患者も多くいます。人工呼吸器の停止が生命危機を招くことが自明な患児たちにとって、電源や酸素の枯渇は脅威になります。
重篤な患児を転院させることも容易ではありません。
受け入れ先が見つからない、搬送手段が見つからない、搬送に付きそう人員が確保できないなども脅威になり得ます。
患者の殺到は、特に小児科では危機的状況を招く恐れがあります。
近年、小児科を標榜する医療機関が減る一方で、公費を投じてでも小児科を維持する地域も散見され、地域住民が『小児科といえばあそこ』という強い指向性を持つ可能性があります。ゆえに小児科を標榜していることで、小児の急性外傷が殺到するということもも想定されます。
また、単に医療機関だから診療してもらえると思って集まる負傷者も居ると思います。
診療すべき患児を抱える小児科医が、トリアージや初療に手を取られてしまうこと、殺到により施設の安全が脅かされること、診療材料などのリソースが大きく消費されることなど、殺到に係る脅威は多くあります。

減災の焦点
小児科の減災は、医療機関としての基本的な備えと並行して計画される、患児個別の対応方針や戦術が必要です。
発電機や酸素ボンベの備蓄など、多くの医療機関で行われる減災は、小児科にも求められます。

患児個別計画
リソースの消費を抑える策は、小児医療では重要視すべきポイントです。
在宅に移行している患児たちが、災害を理由に入院を希望して殺到すると入院病床はまたたくまに満床になると思います。
災害を入院理由にさせないために、患児個々の備えを充実させること、家族や地域に協力を要請することが、医療機関の減災にもつながります。
入院中の患児に対しても、個別計画が在ると良いです。
大人の指示を理解できるか、自らの足で避難できるか、煙や塵埃などに過敏ではないかなど、患児それぞれで対応が異なるため、完全な個別計画ではなくとも、患児をいくつかの類型に分けて簡易的にでも計画を作っておくことで、発災後の混乱を軽減できる可能性があります。

減災実務(想定)
地域の医療事情を掌握することは、減災を計画する上で重要になります。自院が置かれている立場、地域の期待、現状とのギャップなどを正確に理解することで、減災対応が大きく変わります。
弊社では、地図上に医療機関をプロットして、それぞれの専門性や病床規模から、患者の動向をシミュレーションしています。
NDBオープンデータから、在宅で医療的ケアを受けている患者数の推定も行っています。病院がある疾患に対し『全患者受入』の方針を掲げれば、患者数に合わせたリソースの確保に動きます。
まずは前提条件を定義するために、リサーチから始めます。
インフラ・リソース
医療機関における、基本的な対策を講じます。電気や水、医療ガス、通信などのインフラ系は備蓄や多重化で備えます。
医薬品や診療材料については、特に小児医療に特化した物品は十分な備えをします。
搬送が容易ではない患児も少なくないとすれば、2週間程度は病院に籠れるような備えが必要です。品目と数量、検討することから小児科の減災がスタートします。
発災時に持ち合わせたリソースを、適時適切に消費していくための指揮命令や現場判断が必要になります。そのための図上演習や実地訓練などは減災に欠かせません。
個別計画
患児それぞれの個別計画の策定が、減災における山場とも言えます。入院患者に対しては簡易的なものでも良いですが、いずれ在宅や施設へシフトする可能性があれば、しっかりと作り込んでしまった方が良いと思います。
完治はしていないが退院した患者群は、個別計画が在宅医療の安全管理にも影響します。療養住環境はそれぞれ異なるため、その環境に応じた計画が必要になります。

研修・訓練
医療機関やエッセンシャルビジネスに共通して行うべき教育研修メニューを用意しております。
小児科や医療的ケア児に特化した図上演習のシナリオなど、専門的な研修や訓練にも対応します。土砂災害が起きるとどうなるのか、そのとき職員は何をすべきなのか、その行動に必要なツールやスキルは在るのか、座学だけでなく図上演習や実地訓練を通じて院内実装しています。
消防法に基づく避難訓練は、消防計画に沿って行われますが、弊社では同時並行で、計画外を想定した訓練を企画・支援しています。3階の乳幼児病棟30床、看護師5人、避難を目的化せず患児の生命を守るための行動を考え、実際に動いてみる、といった番外編のような訓練を実際に行います。
患者会など、非医療従事者への教育研修も弊社で承っております。何百棟もの住宅建築に関わってきた医療従事者が、平易な言葉で講義や演習を提供し、医療的ケア児/者の減災について学ぶことができます。

実務経験とコンサルティング
弊社代表(西謙一)は、病院での勤務経験があります。臨床工学技士として臨床に立つだけでなく、マネジメント側の実務経験もあります。
大阪母子医療センターでの減災・災害コンサルティング実績、小児科らの延長線上にある診療を行う国立病院機構宇多野病院でのコンサル実績、関係先での研修や訓練などの実績があります。
在宅医療については、療養住環境最適化のためのコンサルティング、医療的ケア児の当事者との減災研究など、現場に志向した独自の経験とノウハウがあります。
小児科領域のBCP・BCMのコンサルティングは、弊社が得意とする分野の1つです。

ご用命ください
弊社では医療機関や福祉施設などのエッセンシャルビジネス向けの減災コンサルティングサービスを提供しています。
補償金などカネで解決することが難しい、生命や健康、倫理など特殊事情に関わる現場に特化した、専門的なコンサルティングを展開しています。
コンサルタントには臨床経験があります。ある程度は医療用語が理解でき、実務が想像できます。実際、共感を得るような刺さる提案にご好評いただいております。
これまでに国公立病院、民間病院、災害拠点病院、ケアミックス病院、介護医療院など様々なタイプの医療機関で減災のお手伝いをして参りました。社会福祉協議会や訪問看護ステーション、医療的ケア児・者の患家などにも対応しております。
減災について、弊社には独自のノウハウがあります。
