GOA – 医療BCPの基本的な考え方と行動 | BCP | BCPのNES

GOAとは?

GOA (Goal-oriented action)

 "GOA"とは私たちがつくった造語です。

 "Goal-oriented action"とは、目標志向の行動であり、非常事態で皆がバラバラに行動しても、共通の目標に向かって行動し、目標へ到達するためであればあらゆる手段を検討してみましょうというものです。

 BCP (Business Continuity Plan) やDRP (Disaster Recovery Plan) は『プロセス』よりも『結果』を重視する事があります。

 『何はともあれ、助かって良かった』と言える結果に価値を見出します。

 私たちがBCPやDRPを策定する場合、最初に方針や目的などを掲げます。これが1つの行きつく地点、"goal"でもあります。

 私たちは"BCP with GOA"を推進しています。



GOAはBCPの中に

 目標(goal)を志向(oriented)するBCPとは、中間や行間を無視することとは異なります。

 特に医療においてはEBM (Evicence Based Medicine)、科学的根拠に基づく医療の提供が定着しており、個々の診療の基底には最新・最良の根拠をもって判断が下されています。

 すべてルール無用という訳にはいきませんが、断水で手洗いができないから処置や手術をしないという訳にもいきません。

 平時の医療は参考にしますが、非常時という新基準で物事を考えるのがGOAです。



秩序を乱さないためのBCM

 医療では法令違反も危険ですが、安全や感染の面で常軌を逸した行動は患者生命を脅かす恐れがあり、医療資源が限られる震災後などは医療提供体制全体をも脅かしかねません。

 どの程度までの逸脱が許容できるのか、どのような事が起こると現場の混乱を助長するのか、平時から教育や訓練が必要です。

 BCPではBCM(Business Continuity Management)も重要視されています。




場面事例

電車の中で出産、素人が分娩介助

 出産といえば産婦人科か自宅が一般的、電車の中は通常は出産する場所ではありません。
 助産師などの免許を持たない人が分娩介助する事も通常ではありません。

 しかし、電車内で産気づき妊婦は横たわり、そこに出産経験のある女性が何人も居たらどうでしょう。
 産湯もタオルもありませんが、誰かが赤ちゃんを取り上げてくれれば生命や健康に害なく生まれることができるかもしれません。

 この状況で『私は医師でも助産師でもありません』『こんな不衛生な所で生むべきではありません』などと杓子定規な事を言う人ばかりではないと思います。

 この状況では即席の分娩チームが出産と母子の安全を目標に、携帯しているタオルや飲料水、アルコールティシュなどを駆使して行動することでしょう。



救世主?無免許運転?

 ときどき『バス運転手、意識失う 乗客が停車』といったニュースが飛び込んできます。

 異常を察知した乗客が、勇敢にも運転席まで行きハンドルやブレーキを操作して停車させたというストーリーが付随します。

 政府の交通安全白書によれば運転免許保有者8,215万人のうち大型免許保有者は約5%、第二種大型免許になると1%程です。

 運転手の意識喪失に居合わせる乗客が大型二種免許保有者である確率は相当に低いですが、免許保有者を探して招き入れる余裕もない状況ですので、おそらく免許の有無に関わらず対応していると思います。

 普通ならブレーキを踏んで停車しますが、非常事態ですので車体を壁に擦らせて停止させる事もあります。
 エンジンを切ればやがて停止しますが、ハンドルもブレーキも重くなってしまうので得策とは言えません。

 限られた時間で適切な判断をする、誤った行動をしない、GOAの質向上に求められる要素です。



一般社会でも変わる常識とGOA

 避難時にエレベーターを使わない事が『常識』として刷り込まれている感がありますが、そもそもの目標は避難する事です。

 禁止されているからエレベーターを使わないであろうという性善説も、生命危機の迫る非常時であればエレベーターを使ってしまう人もいるかもしれません。

 エレベーターを使う事が安全かつリーズナブルであれば、エレベーターを使用することは理にかなっていると思います。

 どうすればエレベーターで避難できるか、それを真剣に考えて実装したのが森ビルです。エレベーター避難を実装したビルが2014年に誕生しています。

 GOAを実現するためのBCP、BCPの目標を達成するためのGOA、相乗効果が生み出す新たなインフラ整備の先例になった事案だと思います。

森ビル: 虎ノ門ヒルズで非常用エレベーターを活用した避難計画の運用を開始 ~火災発生時における歩行困難者の避難誘導が可能に ~ 超高層複合タワーで初めて東京消防庁より認定を取得 (2014年12月2日)

東京消防庁: 高層建築物等における歩行困難者等に係る避難安全対策

日本経済新聞: ビル火災、非常エレベーターで避難を 東京消防庁 (2013年4月18日)




教育・研修・訓練

概念の習得

 GOAとはどのようなものか、どのような時に、どのような目的で発動されるものかを習得して頂きます。

 非常時に難しい判断を迫られる医師や看護師には特に入念に説明を行います。
 可能な限り看護部長らマネジャー級の方から、GOAが発動される場面の説明や、事前学習の必要性をお話しして頂いております。



ボーダーラインの共有

 GOAはときにルールを逸脱し、場合によっては法令違反ギリギリのグレーゾーンにも立ち入る事があります。

 どのような場合には、どのような判断がなされるのか、院内で共有してもらいます。

 教科書もガイドラインも無い事ですので、スタッフ同士で『セーフ』『アウト』などの意見を出し合って頂きます。



『入院患者が他の患者の用手換気』

 標題の質問を投げかけた時、平時の脳であれば『アウト!』と言われるでしょう。

 しかしながら、夜勤帯に大地震を被災し全館停電、院内発症の急性外傷が多数居り、スタッフにも負傷者が居るとします。
 内科病棟には10人以上の人工呼吸器装着患者、整形外科病棟には足の骨折や関節治療の患者が50人程入院中で上半身は元気な若者が20人程居たとします。この若者が『何かお手伝いします』と名乗り出てきました。あと1時間で人工呼吸器のバッテリは切れますが、職員参集まで1時間以上かかりそうです。

 このような条件を出したとき、整形外科病棟の入院患者が、内科病棟で用手換気をするという事は、絶対的にNGでしょうか。

 このような場面を想定し、院内で議論して頂きます。

2011年3月11日



GOAリテラシー

形式知より暗黙知

 非常時にGOAが実践されるとき、具体的な指示を出す人や、細かく行動を監視する人は居ません。

 ゆえに、スタッフ個人の良心と、そこにある秩序が行動の基調となると考えられます。

 そもそもGOAについての理解を誤っていたり、悪用しようと考えると、想定外の事が起こってしまいます。

 覚えるものではなく、身に付けるものですので、マネジメントする際には『どのように理解したか』を観察します。



誤ったマネジメント

 社員が会社の商品を盗み出していた会社の記者会見で、職員に対し窃盗はいけないと教育しますと真面目な顔でおっしゃっていました。
 言いたいことは分かります。再発防止という事だと思いますがもし自分がそこの社員であったとき、どう思いますか。

 物を盗んではいけないと上司に注意されなくても知っていますし、おそらく窃盗をした当事者以外は盗もうなどと考えたことが無いと思います。

 真正面から『盗まないでください』『窃盗は犯罪です』と言い続けてもこの手の問題は再発すると思います。

 個々のスタッフの特性を理解し、有効な手段を講ずることがマネジメントだと思います。



職員本位

 非常事態における医療提供体制は、医療従事者の善意や使命感に依存します。

 平時から難しい判断を迫られる職業であるがゆえに、自立した人材が多いのも医療従事者の特徴です。

 その医療従事者に、非常時の行動を事細かく指示し、制限する事は得策ではありません。

 当院として非常時に優先すること、諦める事などを平時から示し、研修等の際には職員の率直な意見に傾聴し、非常時にあるべき姿を少しずつ変えていきます。

 病院として外傷を受け入れる方針を掲げても、職員の大半が反対意見を持っていた場合、非常事態に直面してから実施困難に陥るより、事前に理解を求めて体制を構築するか、方針を転換して外傷を諦めるという事も必要になります。

 屈強であるより柔軟であること、危機にさらされても強くしなやかに生き延びるための重要な手段です。