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ベスト・プレゼンテーション・アワード(BPA) @日本臨床工学会 | NES’s blog

 2025年5月18日から19日の2日間、大阪国際会議場(グランキューブ大阪)で開催された第35回日本臨床工学会のBPA(Best Presentation Award)が発表されました。

 最優秀賞には、国立成育医療研究センターの芝田正道さんが選ばれました。

 芝田さんのご発表を聴講させて頂きましたが、他の発表者を圧倒するような研究内容であり、口演に際して選ぶ言葉も絶妙、専門的過ぎず、平易過ぎず、一般演題発表の適正さを熟知した発表であったと思いました。

 研究計画、成果を積み上げていく過程にも大きな違いがあると思いました。
 多くの発表が、何らかの事象を解析する内容で、リソースは患者や医療機器など外部から得て、解析方法も専用ソフトを使うなど他の力を借りている、内容によっては他の人でも容易に同じ研究ができるものもありました。
 その点では、最優秀演題賞を取った研究は自らAIシステムを創造している時点で、唯一無二の物を持った上での研究になっています。制作期間が必要であり、この時点で他の発表よりも研究に費やしている時間に大きな差があったと思います。

 臨床工学という視点に重きを置くとすれば、BPAにノミネートされなくなる可能性のある発表もあるのではないかと思いました。
 症例検討のようなものは、臨床工学技士が行うよりも医師らが行った方がより良いのではないかと思われるものがあります。そこには目標志向の考え方も関係します。臨床工学技士は症例検討しても自ら診断や治療方針を決定することができないため、臨床では上申や提案に留まります。 一方で医師は、自ら診断や治療方針を決定する必要に迫られる立場であるため、症例検討に対する重みが違いますし、発表に対するオーディエンスの反応にも、重いものがあります。
 その視点で言うと、ECMOの血栓形成や、輸液ポンプの抗がん剤曝露などは、他の職種よりも臨床工学技士が研究する意義があるのではないかと思いました。最優秀賞を受賞した演題も人工呼吸器の物品関連ですので、臨床工学技士らしいと思います。

 社会貢献性も評価されるべきだと思います。
 医学の発展に寄与するほど、どっぷりと研究者という臨床工学技士は少ないので臨床発の研究が多くなりますが、安全性向上や業務効率化などでも良いので、医療や医学、経済などへの寄与が見られる研究は高評価されるべきだと思います。
 臨床工学技士は元々、医療機器の操作および保守点検が生業でした。治療効果を高めるというよりは損なわない、安全志向が高い職種であると考えられます。ゆえに、研究のゴールとしては安全に資することが、臨床工学らしい学術活動であると言えるかもしれません。
 安全性を担保した上で手術時間を短くできるような研究成果が出れば、麻酔時間短縮で患者のリスク低減、医師や看護師らの労務軽減になるかもしれません。単位時間あたりに実施できる手術件数が増加すれば、高齢者激増の時代において手術待機期間の短縮、病院経営としては手術件数増加でプラスに働くかもしれません。

 筆者は、今回の学会2日目は、BPAの発表を聴くことだけが仕事のようなものでしたので、色々と考える機会になりました。




各賞受賞者

BPA最優秀演題賞

BPA4-1
物体検出AIを用いた人工呼吸器関連インシデント判別モデルの検討
芝田正道
国立研究開発法人国立成育医療研究センター 手術・集中治療部 医療工学室


BPA優秀演題賞

BPA1-5
CTを用いたECMO用人工肺内の流れの可視化による血栓形成しやすい部位の検討
溝口貴之
大分大学医学部附属病院 医療技術部 臨床工学・歯科部門

BPA3-5
iNO併用療法時の呼吸器回路内と喉頭部におけるNO濃度変動の解析
佐藤詩歩
浜松医科大学医学部附属病院 医療機器管理部


BPA奨励賞

BPA1-1
変時性不全を呈するペースメーカー植込み患者の長期予後に関する検討
村上堅太
名古屋徳洲会総合病院 臨床工学室

BPA2-1
透析後回復時間(DRT)に与える影響因子についての検討
人見友啓
医療法人援腎会 すずきクリニック

BPA3-1
抗がん薬投与後の輸液ポンプへの曝露調査 第一報
稲田潤一
神戸大学医学部附属病院 臨床工学部

BPA2-4 日機装社製透析監視装置の再循環率測定を用いたアクセス流量算出式の導出
小柴大弥
社会医療法人 名古屋記念財団 東海クリニック 臨床工学部




最優秀演題賞発表

最優秀演題賞の表彰
(賞状盆係は大阪のオバちゃん)

受賞者の記念撮影
(シープリンを入れると最優秀演題賞受賞者が中央ではなくなる)




 受賞された皆様、おめでとうございます。

 受賞者コメントを聞く機会もなく、記念撮影をしたら終わりというのは残念でした。医工連携アワードは受賞者コメントの時間があったので、どちらが格式高いのか。来年は、平等にと願います。

 落選された方々も、まだまだチャンスはありますので、また新しい知見を積み上げて挑戦して頂ければと思います。

 筆者も、2年後の学会を目指して、BPA最優秀演題賞を受賞できるような研究を進めて参ります。