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洪水から家電やエアコンを守る | NES’s blog

 今年も線状降水帯による被害が報告されています。死者が出るケースは報道量が多くなりますが、死者が出なくても家財道具を失うなど心折れるような事態が発生しています。




財産

 家にある家電製品は、その家の財産です。買ったにしても、貰ったにしても、一般的には他人の物ではなく、その家の人が所有する私的財産です。

 家電製品を失うということは、財産を失うことになります。

 家電製品は、その形が残っていても、機能しなければ失ったと同じようなことです。

 仮に1円の値段もつかないような家電製品であったとしても、使えていたのであれば価値はゼロではありません。壊れた新しい物を買うことになれば、物的な財産は増える一方で金員が減ることになります。




家電の弱み

 家電製品は電気を使って機能する製品です。

 電気を通しても動作しなければ、その目的を失うことが一般的です。電動アシスト付き自転車のように、電源がなくても自転車の機能が残るものもあるので、すべての製品に共通のことではありませんが。

 電気は水との相性が悪いです。

 電気は通じるべきところは銅などをつかって低い抵抗で通電させますし、通じるべきではない点と点はなるべく高い抵抗、理想的には抵抗無限大の絶縁状態であるように設計されます。

 水は、抵抗無限大の絶縁を破壊する手段となり得ます。




高湿度ですら

 絶縁状態の電極間に埃が渡っていると、わずかに電気が流れることがあります。

 その埃が湿気を帯びた時、わずかにしか流れていなかった電気が、よく流れるようになってしまいます。

 その結果、無用な電気が流れて焼損することがあります。




水が押し寄せる

 洪水とは、大雨などによって水が押し寄せて、通常は浸水しない箇所まで水に浸されてしまう状況です。

 河川の堤防決壊による氾濫ではゼロ – イチといった感じで瞬間的に洪水に見舞われることがあります。

 内水氾濫とは、降雨によって河川や下水道の排水機能が追いつかなくなり、雨水が溢れ出す現象のことです。排水機能が追い付いている間は何ともない状態、閾値に達したとたんに氾濫が起こることがあります。すでに排水機能は追いついていないが、氾濫は起きていなかったところに、急な豪雨で内水氾濫を起こすこともあります。

 アスファルト等で舗装され、用水路は暗渠化された都市部では想像が追い付かないこともあります。マンホールから噴出する水の映像は、用水路がいっぱいになって道に漏れ出る水が、マンホールという1つの狭い出口に集中しているためです。




内水氾濫

 下の画像は内水氾濫後の様子です。

 氾濫している瞬間の画像が無いのが残念ですが、用水路の限界を超えると、道路に水があふれ出るということはご理解いただけるかなと思います。

 16時頃の用水路の様子は下図のとおりです。この用水路は画面奥側でいくつもの用水路と合流します。


 16時55分頃の様子です。道路の高さまで10cmもないくらいにまで水位が高まっています。


 17時18分頃には、水位が下がっています。


 17時半頃には脅威は去ったようにも見えます。ただし、用水路に転落すれば生命が危ぶまれるほどの濁流です。




水から家電を守る

 内水氾濫か外水氾濫かは関係なく、とにかく家電品が水と接することが、家電品の生命を奪うことになり得ます。

 すなわち、家電製品と水との接触を避けることが、家電製品を守る1つの手段になります。




高いところへ

 家電製品を洪水から守る手段の第一候補、優先的に行うべきことは高い所への避難です。

 できれば、すべての家電品を上階へ移動させる、車に積んで高台へ避難するなどの行動をとると良いです。




遮断

 冷蔵庫など簡単に運べない家電製品もあるので、すべての家電製品を上階へ移動させることは困難です。

 エアコンや給湯器は、そもそも移動させられるような設計になっていませんので、電化製品すべてを高い位置にと考える場合、家の設計から見直す必要があります。

 動かすことができない物がある前提で考えると、次の手段は電力供給の遮断です。

 家電製品などが水に浸かってしまうことは甘受して、短絡や漏電の可能性を低減させることに志向します。




遮断方法(1)プラグを抜く

 家電製品への電力供給を遮断する方法の1つが、プラグを抜いてしまう方法です。

 壁コンセント(アウトレット)にプラグが差さっていなければ電力は供給されません。




遮断方法(2)ブレーカーを切る

 家電製品への電力供給を遮断する方法の1つが、ブレーカーを切ってしまう方法です。

 分電盤から壁コンセント(アウトレット)に電力供給されなければ、その先につながる家電製品にも電力は供給されません。




浸水後の家電製品

 電力を遮断したことで、例えば冷蔵庫は鉄製の箱が浸水したというような状況です。

 泥水による浸水なので、真水とは少し様子が異なります。そのまま乾いてしまうと土や埃など不純物で電極間の通電が起こり得ます。

 浸水が引いたあとで、真水で洗浄します。

 もしかすると、この作業がとどめになるかもしれません。家電製品が壊れてしまったら諦める、というくらいの覚悟で真水での洗浄に取り掛かった方が良いと思います。

 なお、筆者もこの作業に関する責任は負えません。


 洗浄時の注意点としては、あまり水圧を掛けないこと、妙な角度から水を掛けないことです。上から水が垂れてくる可能性は多少の想定をしていても、真下から強く水がかかることは想定していないことが多いので、下方から勢いよく水を掛けると故障してしまうかもしれません。

 自己責任でするしかないのですが、洗浄器具を使った方がよいのかもしれません。

蓄圧式 噴霧器
 手動で噴霧力をためて、手動で水をまく、蓄圧式噴霧器です。
 強力ではないので、マイルドに洗浄する際には便利です。




エアコンや給湯器も洗う

 ダメ元という感じにはなりますが、エアコンの室外機や給湯器など、屋外に設置されている機器類が洪水により浸水してしまった場合も、真水で洗浄すれば復旧できる場合があります。

 洗浄を推奨するものではなく、そのような選択肢も存在するということです。

 ただし、これらは家電というよりは住宅設備の類なので、もし火が出たりすれば建物火災につながる恐れもあります。

 安易に洗浄して使うということは避けた方が良いかなと思います。

 浸水後ではどうにもなりませんが、今後の浸水を恐れる場合は、業者さんに相談して高い位置に設置し直してもらうことも検討されると良いでしょう。




絶縁測定

 真水で洗浄したのちは、よく乾かします。

 水が溜まって錆びると良くないので、可能な部分はタオルなどで拭き取ってしまい、その後、十分な時間をかけて乾燥させます。

 乾燥したら電源オンではなく、絶縁測定を行います。冷蔵庫であれば電源プラグとボディ(筐体)の金属部、コンプレッサ、冷媒管などの絶縁状態を見てみます。

 通常、電気が流れていそうな部分を探して、そことボディとの通電を順次確認します。
 本来であれば、ボディを触って感電することはないので、ボディに通電の兆候があれば、まだ濡れているのか、故障しています。

 明らかな絶縁破壊が起きていれば、電圧や抵抗を測定する汎用テスターでも通電が確認されますが、微妙な絶縁不良については、絶縁測定器を使う必要があります。

 絶縁不良が確認された家電製品を使うことはできません。漏電による感電や火災の原因になります。




全軒訪問調査も過去

 20年以上前に筆者が住んでいた地域は、毎年のように台風で洪水が発生し、床下浸水は当然のこと、床上浸水もときどき見られるという状況でした。

 どこの家の物置にはスミチオン乳剤という殺虫剤が常備されており、洪水が引くとスミチオン乳剤を家の周囲に撒いてハエが大量発生するのを予防していました。
 洪水から数日以内には自治体の消毒車が来て、床下に薬剤を噴射して家全体の害虫発生を抑えていました。こちらは公衆衛生の問題なので行政が動いていました。

 一段落するかどうかという段階で、電気工事業者が連携して全軒訪問して絶縁測定するというのも恒例行事になっていたように思います。

 組合に加入している業者が無料で全軒訪問し、分電盤のところで絶縁測定をして帰るというものでした。

 中には、絶縁不良が見つかる家もあります。

 まだ漏電ブレーカーの普及率が100%とは言えない時代でした。東京電力管内で言うと単相二線式の20A、黄色のカバーがかかった主幹ブレーカーに、形式的に分岐の安全ブレーカーが付いているという家が多かったです。

 当時の電気屋としては『単三切替』という、単相二線式から単相三線式に切替、とりあえず40Aのグレーのブレーカーに変更するという工事の受注が多かったです。分電盤や電線などの材料費込みで1軒10万円、半日で終わる工事でした。エアコンが1軒1台から1部屋1台へと移り変わる時期でしたので、単三切替の需要も高かったです。
 言い換えると、単三切替していない家々では、漏電ブレーカーも無い状態でしたので、浸水後は危険な状態であったといえます。




今は相手にされないかも

 『こんにちは。電気工事工業組合から漏電の検査に来ました。』と言って、何軒の家が宅内に招き入れてくれるでしょうか。

 招き入れた方が良いとは言い切れません。

 詐欺業者が居ないとは言い切れません。

 組合員の写真付きIDカードなどは無いと思いますので、提示できるとして電気工事士免状くらいです。免状の写真を撮らせろと言われて素直に応じる電気工事士は少ないと思いますので、互いに疑心暗鬼で終わりそうです。

 正規に巡回している場合、おそらく電気工事士自身はボランティア、無償で対応していると思います。
 無償奉仕の最中に、疑われた挙句に怒られでもすれば、心折れて巡回を続けられないかもしれません。

 警察を呼ばれた方がスッキリするかもしれませんが、警察もどのようにして詐欺師ではないと見抜くのかわかりません。




町内会で取りまとめて有償化

 怪しい業者が出回るような災害後ですので、ここは町内会(自治会)で点検依頼を取りまとめてしまった方がスムースかもしれません。

 回覧板でもLINEでも何でも良いですが『漏電の点検を希望しますか?』という問いに Yes と回答した家をまとめて、電気工事店に依頼すると良いかもしれません。

 町内会から電気工事店には謝金を支払う、あるいは適正な費用を支払った方が、責任の所在が明らかになって良いと思います。
 費用感は難しいですが、電気工事士免状を持った現役の職人であれば1軒5,000円でも安いと思います。地域で100軒をとりまとめること、全員が被災者であることを鑑みた出精値引きで職人1人・1日あたり3~5万円などと交渉できるかなと思います。

 絶縁不良などが見つかった場合、工事を即時受注してもらっても構いません、利益相反にあたりませんと言っておけば1万円でも良いかもしれません。

 ボランティア=無償というイメージが強いかもしれませんが、プロがプロの仕事をするようなボランティアは、有償であっても違和感がないという考えの国も多くあります。




絶縁不良なら

 電極間の通電要素が見当たらないように、例えば真水で洗浄してよく乾かしたとしても絶縁不良があったとします。

 そのときは、その家電製品を電気回路から切り離します。

 冷蔵庫などであればプラグを抜きます。

 給湯器など電源直結であれば、ブレーカーを切ります。

 よくわからないときは、電気工事士を呼んだ方が良いです。多少の費用がかかるとしても、住宅が火災に見舞われるよりは、ずっとマシです。




1階は完全オフ

 今回は家電製品のフォーカスした記事でしたが、家の外には防水コンセントや門灯などがあり、それらの電源は屋外にあるため浸水の影響はいち早く受けることになります。

 1か所でも絶縁不良となれば漏電ブレーカーが作動し、家中が停電してしまいます。

 洪水の恐れがあるときは、重要な家電品とともに家族も上階へ避難し、1階はブレーカーオフが良いと思います。

 もし、漏電してしまったときは、手順に従って漏電箇所以外を復旧させましょう。