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ゲートキーパーとは | NES

ゲートキーパーとは

 『ゲートキーパー』をネット検索すると自殺対策のウェブサイトが多くリストされますが、実際には幅広い意味で使われている言葉です。

 "gatekeeper"を直訳すれば門番です。セキュリティゲートに警備員が立ち、境界線を守っている様子が想像できます。

 AppleのmacOSでは信頼できるソフトウェアだけがMacで実行されるように採用しているテクノロジをGatekeeperと呼んでいます。




自殺対策のゲートキーパー

 自殺対策としてのゲートキーパーは『命の門番』という位置づけでそう呼ばれていますが『ゲートキーパーとは何か』という部分を掘り下げるのではなく、自殺対策として何をすべきかという事に重きが置かれているので、他のゲートキーパーとは少し意味合いが違っている感じがします。

 自殺は社会問題として取り上げられていますが、自殺を考えてしまう個々の悩みには、個別に対応する必要があります。その糸口をつかむのがゲートキーパーの役割です。

 悩みを根本的に解消するには専門家の力も必要になることがありますので、ゲートキーパーはどの時期に誰を紹介すべきかを考え、実際にマッチングする事ができる能力が求められます。

[Link] まもろうよこころ(厚生労働省):命を守る『ゲートキーパー』とは?

[Link] 厚生労働省:自殺対策, ゲートキーパー

[Link] 厚生労働省:自殺対策白書




医療の専門分化とゲートキーパー

 医療の高度化に伴い専門分化も進み、例えば『外科』は消化器外科や心臓外科などの診療科目に分かれました。更にその中でも上部消化管や胆肝膵など臓器による専門、さらにもっと細かい専門へと分かれ、それぞれの専門分野で専門的な診療が行われています。

 そこで必要となったのが『総合診療医』(General Practitioner)です。特定の疾患だけを診るのではなく、患者に必要な医療資源は何かを診ることが専門というイメージです。治療だけでなく予防や保健といった広くヘルスケア全般が領域とも言えます。

 救急医も似た仕事をしますが、こちらは診療を進める事が責務であり予防などにコミットしている時間はありません。

 ジェネラリストである総合診療医は、患者の健康に関するニーズに応じる仕事をするために、ゲートキーパー役を担います。医師だけでも専門分化されていますが、コメディカルと呼ばれる職種も免許がたくさんあるだけでなく、その中でも専門分化されていますので、患者のニーズを満たす医療はどれであるかをマッチングする必要があります。

 近年、かかりつけ医の在り方について検討される機会が増えています。
 近年、医師の働き方について検討される機会が増えています。
 近年、無医地区が増えています。
 社会が求める医療像が変化する中で、患者と専門家の境界領域を最適化する総合診療医へのニーズが高まっています。

[Link] 厚生労働省:中央社会保険医療協議会 総会(第346回) 議事, 横断的事項 かかりつけ医機能(その1)について

[Link] 厚生労働省:第8回 新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会, 資料4 英国General Practitionerが考える日本の保健医療システムの可能性

[Link] WHO: Primary health care




医工連携におけるゲートキーパー

 ヘルスケア・医療機器/サービスの開発において、主たる市場領域は『医療』です。

 これまで製薬企業や医療機器メーカーなどが医療産業界を牽引してきましたが、産業の多様化や高度化により医療産業界だけでモノづくりやサービス提供する時代ではなくなってきました。

 病院の売店が大手コンビニになり、カフェチェーンもテナント入居するようになったのも遠からず関係します。

 医工連携が進められる中で重要なのは、医療を知らない人が関係するという事を見落とさない、見過ごさないことです。
 特に医療機器は、そのユーザーになれるのは資格を持った医療従事者のみであり、更に専門性が高ければ一定の経験を積んだ有資格者に限定されるので、その数は限られます。
 そして、モノづくりをする企業群のほとんどが、このユーザーにはなれません。

 産業界が医療界を熟知してから参入しようとすると準備期間は10年では足りないかもしれません。
 そこで役立つのがゲートキーパーです。

 医療界と産業界の間に立ち、この境界領域を最適化する事で機器やサービスの開発スピードを速め、精度や確度の高い成果物を生み出します。




私たちが考えるゲートキーパー

 組織や企業の境界を越えて、その内部と外部を情報面からつなぎ合わせる人のことがゲートキーパーであると考えます。

 組織内の誰とでも何らかの形で接触しており、組織外部との接触も極めて多い人間である必要があります。
 この組織内とは社内や院内を指す場合もあれば、医療界や産業界という大きなくくりの場合もあります。

 単に人との接点が多いだけではなく、それを活かす事ができなければゲートキーパーの役割は果たせません。
 ある課題を解決するのに必要な知識を持つ企業内外の人たちが頭の中にプールされていて、顧客の話を聞きながら、誰と誰を組み合わせるとその顧客の要望を満たすことができるかを設計できる人のこそがゲートキーパーです。

 優秀なゲートキーパーは、卓越したスキルやノウハウを持つ人材に精通しており、また極めて多くの先駆的な顧客との間にパイプを持っていて、それらの顧客に対して頻繁に課題とその解決策の提案を繰り返しています。




ゲートキーパーの人物像

 組織には特有の文化や考え方、用語などが存在し、それがコミュニケーションを妨げる要因になることがあります。

 ゲートキーパーは組織の内外と接触する機会がきわめて多く、かつ高度な専門知識を持っているため、関連する情報をわかりやすく伝え、コミュニケーションを円滑にすることができます。

 たとえば、顧客の要望を把握しながら市場の動きを探り、研究開発部門や販売部門との交渉を進めることができます。

 製品の開発には多くのプロセスが必要であり、コミュニケーションの面からさまざまな部門を結びつけるゲートキーパーの存在が、新規事業を成功させる要因のひとつとなっている場合もあります。

 近年はグローバル化に伴って、関連部署や部門が遠隔地で機能しているケースも珍しくありません。製品や技術の開発の際に、多数の情報源に接触し、膨大な情報量を効率的に処理するゲートキーパーの役割が、ますます重要になっています。




ゲートキーパー実践

 弊社では医工連携のゲートキーパー役を実践しています。

 2009年の時点で、臨床経験がある医療従事者が、臨床を専門とせずに医工連携を専門として働いている人はほとんど居なかったと思います。その稀な1人が弊社代表(西謙一)です。

 多くの時間を割いていた仕事が医療従事者の不平・不満・愚痴を聴くことでした。
 そして、その解消策を提示することが重要でした。

 提示した解決策に満足しない場合、そこには少なからず市場ニーズがあります。
 新たな解決策はどのようなものであるか、不満を言っていた医療従事者と一緒に考えます。

 解決策にはどのようなシーズが必要であるか、どの企業ならその話題に関心を持つか、それを考え、マッチングを実現していくのがゲートキーパーの仕事です。

 ゲートキーパーとして役立つために、多くの情報を携えておく必要があります。現場から出て来る課題があったとしても、その解決策が既に存在するのではないか、優先順位は低いのではないかなど一旦は咀嚼して、真のニーズを探索する必要があります。その作業が現場で出来るか否かで、情報発信者との相互関係が大きく変わると考えています。
 単に意見を聞くだけの御用聞きではゲートキーパーとは言えないと思います。意見を出す人に価値を提供する、信頼される人材でなければ良い情報も引き出せませんし、もし開発に至った場合は長期間のお付き合いになるので、信頼関係は不可欠です。

 弊社では、医療従事者とのコミュニケーションを最重要業務としています。会話をすること自体がお金を生むものではありませんので、業務とは言え収益に直結していません。この積み重ねが優秀なゲートキーパーを生み出す基礎であると考えています。




優秀なシーズの情報

 ゲートキーパーは課題解決策となる優れたシーズを把握している必要があります。

 弊社代表(西謙一)がゲートキーパーを名乗り活動を始めた頃は、自身で多くの企業の情報を集めようとしていました。
 ある年の企業面談数は180社でした。数多くの見本市にも出掛けたので接した企業数は数百になります。

 しかし日本だけでも100万社を超える企業があるため、自身で接点を作って把握する事の限界を感じました。
 そこで、支援機関を活用するスキームを確立しました。

 大阪商工会議所や中小機構、県市の産業振興課などから企業のシーズ情報を受け取り、その中から絞り込みをします。
 特に大阪商工会議所では次世代医療システム産業化フォーラムを2003年から展開している経緯から、医療界へシーズを提供する姿勢のある企業群が顕在化されています。

 弊社代表(西謙一)がデザインした『医工連携くまもとモデル』でも同様のスキームを実装しています。ゲートキーパー役を一般社団法人熊本県臨床工学技士会が担っています。
 企業のシーズ情報は一般社団法人熊本県工業連合会を中心に引き出し、その情報をゲートキーパーが理解した上で展開しますが、熊本県内企業では課題解決が難しい場合には経済産業省九州経済産業局経由で九州全域から、それでも無理な場合は経済産業省や中小機構を通じて全国からシーズを集める仕組みにしています。

[Link] 熊本県臨床工学技士会

[Link] 熊本県工業連合会




コンサルタントとの違い

 明確な定義はありません。

 イメージ的に言えば、コンサルタントは顧客である企業等に対して助言や指導をする事を生業としていると思います。

 ゲートキーパーは少し外向きの仕事も含まれると考えます。雇い主である企業の社員らに向けて助言するにとどまらず、外部から情報を引き込んだり、外部との折衝や調整に立ち会ったりもします。特に医療従事者との開発会議などでは、翻訳家としての役割も担い、相互に誤った理解をしていないか監視する役目もあります。

 ゲートキーパーにはコンサルタントとしての役割と、外部との境界領域での仕事があります。




黒子

 ゲートキーパーは医工連携の主人公である必要はありません。

 課題解決型の医工連携では、課題を解決する事が1つの仕事、そして解決策をビジネスとする事で企業は利益を受け取り、その事業を継続する事がもう1つの仕事です。

 この関係が成立すれば、医療現場の課題に対し、解決策が永続的に提供される事になります。企業が利益を得るという点に意味があります。

 事業性を左右するのが開発前の調査や調整です。真のニーズを捉えているか、開発パートナーは課題解決の方をしっかり向いているか、その確認や調整を担うのがゲートキーパーです。

 チームの構成に誤りがあれば正す必要があります。誰と誰を組み合わせると最適であるのか、その引き出しを持っているのがゲートキーパーであり、それを実装できなければゲートキーパーとしての役割は果たせていません。

 弊社代表(西謙一)が国立循環器病研究センターに居た頃、病院の給食を活用した減塩プロジェクトを動かしていました。
 日々、入院患者のために提供している給食を、『循環器病の制圧』を掲げるセンターの方針に従って減塩を家庭にまで広げる、その手段として医工連携を用いるものでした。
 料理教室、弁当、大量調理、レシピ本と次々に事業化しましたが、どのような方法で減塩食を広められるかという事業戦略の策定から、どの事業者と組むことで社会実装できるのかというゲートキーパーらしい仕事を一手に担っていました。
 レシピ本の発行に至るまでに貢献したつもりでは居ますが、レシピ本には名前も何も掲載されていません。

 黒子として活動することも、ゲートキーパーの使命です。

 いずれ『ゲートキーパーが居なければ事業は成り立たなかった』と言われるような存在になることを期待します。




文献

 ゲートキーパーについて述べられた文献はたくさんあります。

 Google Scholarで『Gatekeeper』と入力すれば、細胞工学や情報工学など多種多様な文献がヒットします。
 さらに『Business』と追記すれば概ね事業化推進に関するゲートキーパーの情報が得られます。

 文献で『情報過負荷』(information overload)というワードが出て来ますが、学際領域(境界領域)においては両極的な専門家からあふれ出る情報の中から重要な事柄を選抜し、両者に理解してもらわなければなりません。

 筆者は講演で、新聞記事を示して情報を読みぬくという方法を解説します。関係者に情報が入って来ないのではなく、情報の取捨選択が難しいのでゲートキーパーが必要であるという事を認識してもらえればと思っています。

[Link] Google Scholar



日付の古い順にソート



The Gate-Keeper: An Uncertainty Theory
Journalism Monographs. 1974; 37
Dimmick, John

ゲートキーパー:不確実性理論



Managing the Flow of Technology

Allen, T.J. 1977. Managing the Flow of Technology. MIT Press, Cambridge, MA, USA.

テクノロジーのフロー管理
 MIT(マサチューセッツ工科大学)から発行されている書誌です。この中でアレンがゲートキーパーについて述べています。
 被引用文献として多用されています。
 ハードカバー版は1977年発行、その後1984年にソフトカバー版が発行され現在も流通しています。



The Gatekeeper Reassessed: A Return to Lewin
Journalism Quarterly. 1979; 56(3): 595-679
Richard M. Brown

ゲートキーパーの再評価:Lewinに戻る



The designer as ‘gatekeeper’ in manufacturing industry
Design Studies. 1985; 6(3): 127-133
Vivien Walsh, Robin Roy

製造業における『ゲートキーパー』としてのデザイナー
 商業的に成功したデザイン意識の高い企業において新製品のマーケティング、設計、生産へ貢献するゲートキーパーとしての製品デザイナーの活動などを紹介。



The survival of the gatekeeper
Research Policy. 1994; 23(2): 123-132
Stuart Macdonald, Christine Williams

ゲートキーパーの生存
 ゲートキーパーの社内での役割や他の従業員との差別化などについて、新素材に関心を持つ125人のマネジャーを調査。



The problem of information overload in business organisations: a review of the literature
International Journal of Information Management. 2000; 20(1): 17-28

ビジネス組織における情報過負荷の問題:文献のレビュー
 豊富な情報があるにもかかわらず、必要なときに有用で関連性のある情報を得ることが難しいという矛盾した状況『情報過負荷』を減らすために提供されるいくつかのソリューションを紹介。



Strategic forecast tool for SMEs: how the opportunity landscape interacts with business strategy to anticipate technological trends
Technovation. 2002; 22(2): 91-100
P Savioz, M Blum

中小企業のための戦略的な予測ツール:機会の景観が技術動向を予測するためにビジネス戦略とどのように相互作用するか
 技術革新が早い中で中小企業が競争力を維持するためには計画が重要である。本稿ではゲートキーパーのタスクなどにも触れている。



Gatekeeper Failure and Reform: The Challenge of Fashioning Relevant Reforms
Columbia Law and Economics Working Paper. 2003; 237: 89
John C. Coffee, Jr.

ゲートキーパーの故障と改革:関連する改革を形作る挑戦
証券市場は分散投資家を守るために「評判資本を約束する独立した職業」であるゲートキーパーを長年採用してきた。



Competing Platform Models for Mobile Service Delivery: The Importance of Gatekeeper Roles
IEEE 7th International Conference on Mobile Business. 2008
Pieter Ballon

モバイルサービス配信のための競合プラットフォームモデル:ゲートキーパーの役割の重要性
 新興モバイルサービスプラットフォームの4つの潜在的ビジネスモデルについて紹介し分析します



Gatekeeper failures: Why important, what to do
Michigan Law Review. 2008; 106: 1089
Merritt B. Fox

ゲートキーパーの失敗:なぜ重要なのか
 企業の不祥事の多くが財務に関係し、ガバナンスを利かすために監査人や弁護士らゲートキーパーが重要であると述べている。



Gatekeeping Theory
2009
Pamela J. Shoemaker, Timothy Vos

ゲートキーピング理論
 ゲートキーピング理論は、イベントがマスメディアによってカバーされる強力なプロセスを説明し、特定の情報がどのようにまたはなぜゲートを通過するのか、またメディアの注目から閉鎖されるのかを説明します



Business angel syndicates: an exploratory study of gatekeepers
Venture Capital. 2010; 12(3): 241-256
Stuart Paul

ビジネスエンジェルシンジケート:ゲートキーパーの探索的調査
 本稿では「ビジネスエンジェルゲートキーパー」という用語の定義を提案し、ゲートキーパーの機能と役割を特定し、その役割を果たすために必要なスキルを検証します。このペーパーは、ビジネスエンジェル市場におけるステークホルダーへの影響を考慮して結論づけます。



我が国のコンテンツの海外における「ゲートキーパー」プロファイリング調査(米国編)(2011年3月)

 JETROの調査資料です。89ページのPDFファイルが公開されています。



我が国のコンテンツの海外における「ゲートキーパー」プロファイリング調査(フランス編)(2011年3月)

 JETROの調査資料です。66ページのPDFファイルが公開されています。



The Factors Impacting the Evolved Role of R&D as a Gatekeeper in the Open Innovation Process
El Samra, A. (2021) Proceedings of the R&D Management Conference, Glasgow, UK, 7-8 July, 2021, pp. 1-11.

オープンイノベーションプロセスにおけるゲートキーパーとしてのR&Dの進化した役割に影響を与える要因
 大学の研究成果が企業に渡されるときと、企業に実装されエンドユーザーに届けられるときの2つの段階において、ゲートキーパーが果たす役割を述べています。