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脅威を定義する | BCP | NES’s blog

脅威の国語的意味

 『威力によっておびやかしおどすこと』と広辞苑に載っている脅威ですが、明鏡国語辞典では『威力や勢いにおびやかされて感じる恐ろしさ』と書かれています。
 前者の例文は『核の脅威』、後者は『戦争の脅威にさらされる』といずれも戦争関係でした。

 威力とは広辞苑で『他を圧倒して服従させる強い力』『人の意思を制圧するに足りる威圧的な行為』と2通りの掲載があります。明鏡国語辞典では『他を押さえつけ服従させる強い力』となっています。

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BCPにおける脅威の位置づけ

 我々が策定するBCPにおいて脅威とは『大前提』です。

 BCPを策定するあたり、どういった結果を恐れているのか、その要因となるものは何か、といったあたりを精査します。

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被害・危害

 脅威となるのか否かは被害や危害の程度が関係します。

 人が住む場所から遠く離れた西之島という所では噴火が続いています。爆発的な噴火が起きても生命や財産を脅かされる人が居ないのでニュースになりません。

 噴火は脅威にもなりますが、被害が及ばないのであればBCPとしての脅威にはならないと思います。
 富士山の噴火を脅威と捉えている自治体では、噴火BCPが策定されていますが、全国の自治体が噴火BCPを持っている訳ではありません。

【参考】海上保安庁:海域火山データベース, 西之島

【参考】全都道府県・市町村 地域防災計画 データベース

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被害・危害とは

 生命や財産に何らかの影響を与える場合、被害が発生し得る状況に近いと考えられます。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大は、流行拡大によって誰もが感染し得る状況に陥ったことで、健康被害を受ける可能性が高まりました。赤痢やコレラも制圧されてはいますが、これらも感染力が無くなった訳ではありませんが、喫緊の課題という訳でもありません。

 感染すること自体は被害ではありますが、BCPではその先の影響が脅威と密接です。
 企業で言えば、業務が立ち行かなくなることは避けたいですが、複合的な要素によって業務が進行していることを考えると、どれかが欠けると少なからず影響が出ます。

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危害と脅威を引き離す

 危害要因(危害を与えることができる力を持った存在)があっても、それを脅威としない方策として保険があります。

 事故を起こしてしまったとき、被害に遭われた人の身体や生命を元に戻すことはできません。このようなとき、賠償金や慰謝料という形で、金銭で解決します。
 死亡事故では数億円にもなる賠償金を請求されたら、会社は破綻することが自明である場合、事故を脅威としないために保険を掛けます。自動車保険やPL保険などが該当します。

 保険金ですべてが解決する訳ではないので、脅威の存在を小さくする程度の場合もあります。
 保険があっても無くても、危害要因(ハザード)や危害因子(リスク)が消滅する訳ではありません。

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重大事件を遠ざける保険

 コンビニエンスストアなど現金を取り扱う業種ではしばしば、強盗に遭う事があります。

 強盗からお金を守ろうと必死になる余り、凶行の被害に遭って重傷を負うといったことも少なからずありました。

 近年は『あなた方の生命は買えません』『レジには保険がかかっているので、強盗が来たら抵抗せずに渡してください』といった社員教育をしている企業も見られます。

 保険金の負担が生じるものの、強盗対策に費やす時間を短縮でき、従業員にも安心感を与えられるので、前向きに考える経営者は少なくありません。
 キャッシュレス化が進み、無人コンビニも普及すれば店舗での強盗事件は起こり得なくなりますので、この保険商品自体もいずれは無くなるかもしれません。

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保険がもたらす悪影響

 BCPとして保険で解決というストーリーは常套手段ではありますが、保険があるからと事故を恐れない風潮になることは、新たな脅威を生み出します。

 自動車事故については法に基づいて罰せられるという威力がありますので自制されますが、商品の物的損害は民事ですので自制にも限界があります。

 弁償させられると思えば慎重に扱う商品も、自己負担が無いと思うと軽率な行動が生まれてしまう可能性があります。

 荷物に破損が多い、在庫があると言ったのに納品ができない、これでは企業の信頼を損なうことになります。経済的な危害を受ける行為とみなす事ができます。

 では、保険が要らないかというと、そうでもありません。
 落損したら弁償という契約の下で倉庫のバイトを募集したとき、1本100円のジュースを扱うのと、10万円のワインを扱うのとでは、経済的リスクが1,000倍も差があります。
 ミスをしたらバイト代の何十倍も請求されるのであれば、バイトは集まりづらいです。

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ゼロリスク

 BCPのコンサルティングをしていると時々『ゼロリスク』を目指したいという方々にお会いします。

 リスク、すなわち何らかの不利益が起こらないようにすることは大切ですが、リスクが無いところを選んでばかりでは、ビジネスが成り立たないことが多いと思います。

 例えば交通事故のリスクをゼロにするのであれば、従業員が1人も自宅から出なければ、交通事故に遭う事はありません。
 通勤を含め一切の運転を認めなければ、従業員が交通事故の加害者になる可能性は極めて稀になります。
 全員が住み込み、自社では車を持たない事業であれば交通事故はゼロを目指せますが、他の事故については別問題です。

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否が応でも

 承知しなくても危険因子は近くに存在します。

 それを排除するのか、危害を受けても保険などで対処するのか、自助努力で危害を最小化するのか、選択肢は色々です。

 特に自然災害は回避のしようがありません。

 2020年以降、新興感染症や軍事侵攻により世界の物流や経済は大きな混乱が生じました。

 今後も新たな脅威は生れれます。

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向き合うべき脅威

 BCPを策定するということは、企業や団体など何らかの組織であり、その組織には目的があって存在していると思います。

 その組織の存在理由を軸にして、脅威について考えます。

 営利目的の企業であれば、利潤の追求が社会的使命ですので、それについてはどこの企業も同じです。
 自社が部品供給を生業としていれば、その部品が無くて困る企業のことも考えてBCPを策定します。部品製造を脅かす因子は何であるのか、しっかりと捉える必要があります。

 地震や水害などの自然災害はBCP策定において王道のような、当たり前のように検討される課題です。
 業種や立地などにより、向き合うべき脅威はたくさんありますが、その脅威に気づいていないことが最大の脅威とも言えます。

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バイトテロは脅威

 バイトテロが脅威だとすると、危険因子はアルバイトスタッフになります。

 リスクマネジメントの原則に則ればスタッフ全員を安全だと言い切る事はできませんが、人間関係を構築する上では信頼するしかありません。

 バイトテロの背景には、動画配信などが手軽になった事も無関係ではありません。

 本来衛生的でなければならない食材や調理台などで悪ふざけをする動画が撮影され、それを友人らに見せるというところまでは、内輪の話ということで、噂が広まったとしても事実までは広がりません。
 この動画が内輪から漏れ出たとき、真実が映った動画が社会の目に触れ、不衛生さが疑われることなく印象付けられてしまいます。

 不衛生な行為をする、それを動画で撮影するといったことは危害因子(リスク:危害を及ぼす状態にある因子)であり、その結果として営業停止処分や客離れが起こって経営危機に陥るということが危害です。

 アルバイトスタッフという存在が脅威とならないように、教育だけではなく、不正行為ができない環境づくり、バイトテロを越しにくくするBCPが必要です。

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通信障害は脅威

 『太陽フレア』という自然現象があります。地球ではなく宇宙、太陽の噴火で起こる磁気嵐ですが、これが地球に到達すると電波障害を起こします。

 携帯キャリアがシステム障害等で何百万回線もが影響を受けることもあります。通信を接続する機械の問題です。

 原因が何であれ、通信障害が社会に与える影響は大きくなりました。

 会社の営業日に、固定電話・携帯電話・ネット通信がダウンしたらどのような影響があるでしょうか。それが半日なら、1日なら、3日なら、影響はどうでしょう。

 通信障害は『復旧見込みは立っておりません』というのが初期の公表、その後は通信障害の中で情報も得られぬまま時間が過ぎて行きます。

 いま、通信を使っている業務は何でしょうか。その代替手段は何でしょうか。
 注文を受けて、発送手配し、客先へ届けるという仕事でも、何度か通信が発生します。
 飲食店や美容室などの予約はネットか電話が多いですが、店舗の空き状況の更新にはネットが必要であれば、空席だらけの情報が公開され続ければダブルブッキングが生じ、通信エラーとなってしまうならば予約が取れない状態になります。

 製造業では、製造現場では通信を使っていなくても受発注や発送には通信を使います。
 半日程度の通信途絶であれば影響は少ないかもしれませんが、材料卸や運送業者と連絡が取れなければ製造の継続も危うくなります。

 通信障害は生じるものとして、それが事業継続上の脅威とならないためのBCPが必要です。

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従業員逮捕は脅威

 従業員が、業務と関係ないところで逮捕されても、会社にとって影響がゼロではありません。それが誤認逮捕であっても同じです。

 あって欲しくはないですが、薬物やわいせつ行為など私的な時間、私的な目的で逮捕されるケースは少なくありません。

 詐欺や横領などの見出しが付く事件では、会社組織が関係しているのではと疑われてしまう事もあります。
 会社のイメージですので、真実とは関係ありません。

 ある企業では社員教育の場で『他人のものを盗んではいけません』と訓示があったという話を聞いたことがありますが、子供でも知っていることですので、教育効果としては高く無さそうです。

 会社の初動としては、あるテレビ局の社員が逮捕された際に『業務外での私的な行為』『当社業務との関連は確認されておりません』という前置きをした上で『当社社員が逮捕されたことは大変、遺憾であり』とコメントを発表しました。
 さすがは報道機関ですので、対応は早いですしコメントを的を得ているなと思いました。他局の報道もありましたが、自局でもしっかり報道していました。

 逮捕されるような事件が起こる事は避けがたいとしても、起きてしまったあとの情報戦で負けてしまわぬためのBCPは必要です。

【参考】テレ朝 news:IT支援の補助金を不正受給か 詐欺容疑で逮捕

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地震は脅威か?

 大震災が脅威となることは間違いないですが、地震がどのように脅威となるかは個別に検討が必要です。

 免震のビルであれば地震による直接の被害は無いかもしれません。
 地震後に発生する停電や断水、帰宅困難などの影響は受けるかもしれません。

 停電等の社会的混乱がなくても、倉庫の荷物が崩れるなどローカルな被害で困る業種もあると思います。

 地震という要因が1つでも、それがどのように威力を発揮するかは一律ではありません。

 公益性のある部分については行政の力で復旧や復興が図られますが、企業内のことは民間、自前で復旧などを行わなければなりません。

 傷付いた建物などの修繕はお金さえ払えば最終的には完了しますが、工事が遅れれば業務に支障が出るかもしれません。
 ある企業では工事費の負担が大きいため融資に時間がかかり、その間に操業停止した分のマイナスも重なって経営危機を招いたケースもありました。

 地震に関する脅威を精緻に検証したBCPが必要です。

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水害は脅威か?

 水害の脅威は過小評価されていることがよくあります。

 『ウチは高台にあるので水は来ない』というのは建物の浸水被害の話であって、事業継続とはまた別の話です。

 大型トラックが出入りする倉庫などで、高速道路から倉庫までの間が寸断されれば到着/発送の予定が大きく狂う事になります。

 弊社は医療BCPのコンサルに強みあるため病院の水害評価を実施する事がありますが、自院は全く問題なくても、地域の核となる病院が浸水3~5mの想定となっていると新患の搬送が難しいことが想定できます。
 すると、小さな市中病院であっても地域の要となる可能性があります。
 救急搬送の半分が1つの病院に集中するような郊外の都市では特に脅威が増しますので、水害発生時には少しでも多くの急患を取れるようにと小さな病院が限界を想定するBCPを策定します。

検索したい住所を入力(都市名+町丁名 または ランドマーク)

 下図の中心は大阪府箕面市彩都はなだ、大手企業の倉庫が立地しています。すぐ北側は茨木市大岩で新名神高速の茨木千提寺インターチェンジがあります。南下すると名神高速の茨木インターチェンジも5kmほどの位置にあり、物流としては好立地だと思います。

 ただし図示したハザードマップでは、赤っぽい色が目立つと思います。

 下図の青色星印が当該倉庫です。
 道路は北へ行っても南に行っても土砂災害の危険地域があります。西側は高速道路へと向かう道ですが、それも土砂災害の危険があります。もっと西へ行けば万博公園の方へ行って吹田ICにつながりますが、そちらも土砂災害の危険性が高いです。

 とはいえ、実際は何も起こらないだろうと思っては危険です。過去に、実際に近隣で土砂災害があり通行止めになったことがあります。

 この日はだいぶ迂回する事になりました。
 乗用車だったので、昔からある細い道も通れましたが、ロングボディの大型車だと厳しいと思います。

 通行止めは自社ではどうにも回避できないので、再開通するまで待つしかありません。たった1か所の土砂崩れでもその道路は端から端まで通行止めにされる可能性があり、その影響で他の道路も封鎖してしまうこともあります。

 通行止めを想定したBCPが必要です。

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