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汲み取り屋さんの需要と供給 災害時の排泄物 | NES’s blog

まずは、動画をご覧ください。

 下の動画は私たちが制作した教育コンテンツです。

 BCPセミナーや図上演習で利用しています。著作権者は私たちのチームです。

【研修資料】災害時、安易にトイレを使わない方が良い理由を解説します。




災害時にトイレは使えない

 様々な理由から、災害時にトイレが使えない可能性があります。

 自宅で使えない場合、避難所等へ行って用を足すことになります。

 ただし、トイレが使えない理由が道路陥没などで公共下水管が破断した場合には、避難所の水洗トイレも下水に流すことはできません。




『校庭に穴を掘ろう!』

 避難所となる学校には校庭があるので、そこに穴を掘って貯めておこうということになるかもしれません。

 仮設トイレから出された排泄物は、上手に掘られた排水溝を通って校庭の貯水槽というか、汚物槽に流し込まれます。

 運用中は臭いがひどく、ハエもたかって不衛生、しかしながらトイレが使えないよりはマシだということで、3日~1週間くらいは我慢するかもしれません。

 次の問題は、後処理です。




埋めるか、運ぶか

 校庭に貯まった1,000人×3日分、1人あたり0.5Lの排尿が4回でも2Lなので、9,000リットルの尿が流れ込んだことになります。
 排便を合わせれば10トンを超える汚物をどう処理するかは大問題です。

 埋めてしまうという方法は無くはないなと思いますが、単に埋めただけではそこの土壌に汚物が存在、大雨が降れば地中から菌類が浸み出て来る可能性があります。
 環境が良すぎて、そこだけ肥えた土になって、雑草だらけになるかもしれません。

 やはり、教育現場としてはしっかりと抜き取って、処理場へ運んで欲しいところです。

 排泄物を運搬するにはどうすれば良いでしょうか。




積載物品『糞尿』

 糞尿だけを積む特殊車両があります。


 一般的に『バキュームカー』と呼ばれる車両です。

 『vacuum』は『真空』などの意味がある言葉です。

 ただし、『vacuum car』という英語は無さそうです。探してみると『Fecal Suction Truck』が一般的なようです。『fecal』は糞便、『suction』は吸引、『truck』はトラックです。


 筆者が2001年~2004年頃に住んでいた借家は、いわゆる『ボットン便所』でした。水洗ではありません。

 2023年の今でもボットン便所は存在しますし、本下水ではなく浄化槽というお宅もある程度は残っています。

 バキュームカーの出番は、多少ですが残っています。




災害時に出動要請

 災害が起きたからバキュームカーがすぐに手配できるかと言うと、大都市ほど難しいと思われます。

 都市圏であるほど下水道普及率が高く、ほぼ100%の地域にはバキュームカーのニーズはなく、市内に1台でも多いくらいかもしれません。
 工事用仮設トイレの汲み取り需要があるので家が建つ間は良いですが、人口減少時代の住宅余剰時代に入れば、新築案件も減り、仮設トイレも需要が減る可能性があります。私見ですが、燃料費高騰やシェアリングエコノミーの普及により、コンビニ等が有償でトイレを貸す事業をするのではないかと考えています。

 弊社がある兵庫県で見ても、比較的人口の少ない日本海側にある豊岡市でも下水道普及率は99.3%、水洗化率94.31%です(共に2020年3月末)。

 とはいえ、同市には5軒の業者が市公式サイトに掲載されているので、5台以上の車両が市内にはありそうです。

 料金は公定価格として、市公式サイトに掲載されています。


 人口の多い尼崎市と姫路市も有料であることが示されています。


 神戸市は定期の汲み取りは無料となっています。工事用仮設トイレなどは有償のようです。
 これは推測ですが、下水道という公共インフラを敷設するよりもし尿回収を無償提供した方が税負担が軽い、税の公平性から見て合理的という判断があるのではないかと思います。
 神戸市はとても広く、大阪市には無いような山もありますので、事情がありそうです。




給水車とバキュームカー

 給水車とバキュームカーは、見た目はよく似ています。

 上水道と下水道という自治体の公共事業に深く関係するあたりもよく似ています。

 大きな違いとすれば、所有者です。
 市役所が給水車を保有していることはよくあります。断水時の臨時対応があるためです。
 一方でバキュームカーを保有する市役所は少ないです。こちらは業者委託となっているので、車両は民間企業の資産です。




民業に協力『要請』

 被災都市が自ら保有する給水車を使って給水することはできます。市の資産なので、市長の命令で出動させることができます。

 一方でバキュームカーは民間企業の私的資産であり、それを災害が起きた日まで維持していたのは民間企業の努力、そして災害が起きても自社事業があるので他の用事に使っている場合ではありません。

 『災害だから貸してくれ』と言うのは、人道的には納得ですが、災害時に必要だと言うのであれば税金で維持してくれ、と思う業者が居ても不思議ではありません。

 この構図から、自治体は民間企業に要請することはできますが、強制することはできません。
 もし、強制したいならば、平時から契約を締結し、金員を支払い、受け取った対価の債務として車両を出動させることができますので『契約』が重要になります。




災害時のトイレは平時から考える

 国土交通省でも『災害時のトイレ、どうする?』という動画とともに啓発していますが、災害が起きてからではどうにもならないことも多いので、平時から備えて置く必要があります。

 まずは自宅や自社の建物から備える必要がありますが、避難所のように何百人、何千人と集まる場所ではより不衛生さが甚大になりますので、自主防災組織などでもトイレ対策について考えて置く必要があります。