帝国データバンクでは毎年、BCPに対する企業の意識調査を実施し、一部を公表しています。
今年6月に公表されたデータによると、大企業の策定率は38.7%、中小企業は17.1%でした。
調査対象となる中小企業がどのように選ばれているのか、回答した中小企業にどのような背景があるのか明らかではないので、もし家族経営の町工場や商店の回答率が低かったとすれば、中小企業の策定率は更に低いかもしれません。
この調査では地域間格差も明らかにされています。都道府県でランキングするべき調査かどうかわかりませんが、ランキング結果が新聞記事にもなっています。
【参考】帝国データバンク:事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2024年)
【参考】帝国データバンク:事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2025年)
【参考】日本経済新聞(信越):新潟企業、BCP「策定意向あり」43%に低下 長野企業は59%(2025年8月15日)
政府目標は100%
政府は大企業のBCP策定率100%を目指すと公言しています。
目標ですので達成しなかったから何かがある訳ではないのですが、
南海トラフ巨大地震の防災対策推進基本計画によれば、2014年(平成26年)時点の民間企業BCPあs区定率は大企業で45.8%、中堅企業で20.8%でした。
同計画では目標値として大企業の策定率100%、中堅企業50%を目指すとしていました。
第3章 南海トラフ地震に係る地震防災対策の基本的な施策
第5節 被災地内外における混乱の防止
2 民間企業等の事業継続性の確保事業継続計画を策定している大企業の割合を100%(全国)に近づけることを目指す。また、中堅企業の割合50%(全国)以上を目指す。
(平成23年度日本の大企業で策定済み45.8%(全国)、策定中26.5%(全国)、中堅企業で策定済み20.8%(全国)、策定中14.9%(全国))
南海トラフ地震防災対策推進基本計画
その経過がどうなったのか、2023年(令和5年)の南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループの第1回会合の配布資料で明らかになっています。
『民間企業における事業継続計画の策定率(全国)』の欄を見ると進捗状況は大企業で約70.8%、中堅企業で約40.2%となっています。
2025年(令和7年)に南海トラフ地震防災対策推進基本計画は改定されましたが、改めて政府目標は100%が掲げられました。
最新版では『物流事業者(大企業)におけるBCPの策定完了率』という業界を名指しした策定率が示されました。この物流事業者(大企業)の全国値は41%、これを令和12年に100%にするという目標が掲げられています。国土交通省が何らかの義務を課す可能性がありますので、物流業界ではBCP策定を急いだ方が良いと思います。
【参考】日本経済新聞:「大企業BCP100%」目標 経済被害「292兆円」抑制へ 中堅、策定に人員不足(2025年7月2日)
【参考】内閣府(防災担当):南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ 第1回 参考資料2 南海トラフ地震防災対策推進基本計画の具体目標の達成状況
【参考】中央防災会議:南海トラフ地震防災対策推進基本計画(案) 平成26年3月
【参考】中央防災会議:南海トラフ地震防災対策推進基本計画 令和7年7月1日
物流業
物流業といっても、トラックで輸送するようなヤマト運輸や佐川急便といった企業ばかりではなく、特に近年は大型倉庫が増えており、不動産業や建設業からも物流業へ参入する動きが活発です。
売上高順で見ても、トラック輸送とは結び付かない企業が上位にランクインしています。
- 大和ハウス工業
- 日本郵船
- NIPPN EXPRESS ホールディングス
- ヤマトホールディングス(クロネコ)
- SGホールディングス(佐川急便)
- 日本通運
- ロジスティード
- ニッスイ
- センコーグループホールディングス
- セイノーホールディングス
- ニチレイ
- 山九
- 東洋水産
- SBSホールディングス
- 鴻池運輸
- 三菱倉庫
- 三井倉庫ホールディングス
- 上組
- AZ-COM丸和ホールディングス
- キューソー流通システム
『桃太郎便』ブランドで知られるAZ-COM丸和ホールディングスは、Amazonの物流会社としても知られています。
一般社団法人AZ-COM丸和・支援ネットワークは、個人事業や小規模事業者である配送事業者らに向けて、業務効率化や経営支援などを行っています。
一般社団法人AZ-COM丸和・支援ネットワークには損保会社さんの連携もありそうなので、BCP策定支援メニューなども充実していくものと思われます。
個別でBCP策定をご検討される場合、BCP策定コンサルの活用もご検討されると良いと思います。

中堅企業80%
2014年の計画では、中堅企業の策定率目標は50%でした。
2025年の計画では、中堅企業の策定率目標は80%に引き上げられました。令和17年(2035年)の目標値なので、10年かけて80%に引き上げる計画です。
中堅企業とは、従業員数2,000人以下の中小企業を除く会社・個人とされています。その数は9,000事業者ほどです。
大企業1,300事業者の100%、中堅企業9,000事業者の80%である約7,200事業者、合計8,500事業者のBCP策定を2035年に終えている計画です。
中堅企業の産業別構成比はサービス業28.8%、情報通信業18.0%、製造業16.3%とのことです。
自社は中小企業だから関係ない、というものでもありません。
【参考】経済産業省:中堅企業って何?~知っておきたい経済の基礎知識~, METI Journal
【参考】日本経済新聞:「中堅企業」って何? 分類新設の狙いは(2024年2月14日)
【参考】東京商工リサーチ:2024年の「中堅企業」は9,229社

8,500社と取引のある中小企業
大企業と中堅企業の内、8,500社のBCP策定を目指す政府ですが、中小企業は無関係という話でもありません。
これらの企業と取引があれば、影響が及ぶ可能性があります。
BCP策定の第一歩、まずは脅威を同定します。
現在の大企業や中堅企業のビジネスにおいて100%内製化という業態は少ないと思います。製造業であれば部材や部品は中小企業から調達しているケースは珍しくありません。飲食業でも食材や容器などの物品、清掃や警備などの役務、会計や広告などのソフトウェアなどコアサービス以外はすべて外部調達ということもあります。
そのような大企業や中堅企業のBCPを想像すると、外注業者の事業停止が脅威になり得ると思います。
Q.大地震から何日で再開しますか?
もし、取引先から『大地震から何日で再開しますか?』と聞かれたとき、何と答えますか?
『南海トラフ巨大地震の場合、7日目までに出荷開始を計画しています』などと回答できれば、取引先のBCP上の想定としても貴社は『7日で復旧』と想定してもらえると思います。
一方で、回答を持ち合わせていない場合、貴社は『供給停止のリスク』とされたり、『14日目に再開が見込めない業務』のリスト入りしたり、何にしても危害因子になり得ます。
外部委託していること自体が危害要因(ハザード)ではありますが、内製化したとしても別の危害要因が生まれるだけなので、取引自体に問題があるとは考えづらいです。
取引しても大丈夫なのか、そこがポイントです。
究極は休まない
サプライチェーンの一員として、自社が迷惑かけない方法として究極的には災害が起きても1日たりとも休まない、供給を止めないことだと考える方法もあります。
休まないことに価値が在るのかを考えた時に、産業界ではあまり高い付加価値はないかもしれません。自社の事業をよく見つめる必要があります。
弊社が担う医療・福祉業界においては、特に入院・入所者が居る施設では役務が連続しているため、1日どころか1時間も休めないかもしれません。休むことが、人の生命や健康に害を及ぼすためです。
産業界では、体制を立て直して100%で再開するということも有意義なので、休まないことだけに集中しなくても良いかもしれません。
弊社では、その判断のお手伝いもしています。


まずはBCP策定
取引先から言われるかどうかは別にして、自社を守るためにBCPは重要です。
廃業に追い込まれれば会社は消滅、従業員の生活は激変、取引先にも飛び火する可能性があります。
まずは、BCPを策定することをお勧めします。
BCPの作り方
BCPは自社で作れるのか、社長が自ら作れるものなのか、よく聞かれる質問です。
答えは『Yes』であり、『No』でもあります。
中小企業向けに、中小企業庁では様々なメニューを用意しています。
その1つが、BCP策定用の雛型です。
同様に、中小機構(中小企業基盤整備機構)も中小企業のBCP策定を後押しする情報提供やセミナーなどを行っています。
これらを活用すればBCPという書類は作成できます。ここまでが『Yes』の答えです。
では、なぜ『No』なのか、についてです。実際には『No』と言い切れる訳ではなく、『No』の場合もある、という程度です。
BCP作りの難しさ
BCPとは、Business Continuity Planの略称であり、日本語では事業継続計画や業務継続計画と言います。
『Business』の定義をどのようにするのか、その『Business』を脅かすものは何かを定義する必要があります。
この『定義』する作業がBCPの良し悪しに関わります。
単にBCPという書面を作るだけでは、会社は守られない可能性があるためです。
例えば、ケーキ屋さんの『Business』とは何でしょうか。
例えば、自転車屋さんの『Business』とは何でしょうか。
例えば、ネイルサロンの『Business』とは何でしょうか。
断水は脅威になるでしょうか。電車の運休は脅威になるでしょうか。新興感染症流行拡大は脅威になるでしょうか。
同じ業種や業態でもBusinessは異なります。特にBCP上でのBusinessは変幻自在です。捉え方を間違えていると、せっかく策定したBCPが役に立たない、自社の危機を救うものではないかもしれません。
BCP策定は、奥が深いです。

カネで解決(?)
BCPを策定するにあたり、選択を迫られるところがあります。
それは、損害のカバーの方法です。
ざっくりとした言い方をすると、カネで解決するのか、モノやコトで解決するのか、といった話です。
多少のことはカネで解決した方が早い、ということもあります。
例えば飲食店で、台風で休業して仕入れた材料は無駄になり、売上がゼロだったが給料は発生したとなると1日で数万から数十万の損害が発生します。しかしながら、無理して営業して従業員がケガをしたことで長期休職を余儀なくされれば、長期的に影響が残ります。給料を払っているのだから出勤させるというコトで得られるメリットと、デメリットがあります。
数年に1回の台風での休業であれば内部留保で対応できるかもしれませんが、幾度も重なると負担が苦しくなるかもしれません。
その分を価格に転嫁するのか、あるいは保険でカバーするのか、といった選択が生まれてきます。
カネで解決可能なことについては、保険会社が対応した保険商品を提案してくれる可能性があります。
- 三井住友海上:ビジネスJネクスト(業務災害補償保険)
- 損保ジャパン:ビジネスマスター・プラス
- 損保ジャパン:企業総合補償保険(オールリスク型保険)
- あいおいニッセイ同和損保:タフビズ事業活動総合保険
- 東京海上日動:企業総合保険(休業補償条項)
- AIG損保:地震休業サポート 地休力
カネでは解決できない
弊社が主力事業としている医療機関向けのBCP/BCMでは、カネで解決できない問題を扱うことが多いです。
目の前に居る患者を見捨てて休業し、職員を帰らせる、落ち着いたら再開する、というBCPを作る病院はありません。
どのような手段でも良いので、入院患者を守るためのBCPを策定することに、何の疑問もありません。
病院が十分な対応をせずに病状が悪化したり、お亡くなりになってしまった場合には損害賠償請求をされる可能性がありますが、結果としてそうなってしまった場合にはカネで解決せざるを得ないこともあります。
しかしながら、病院が最初からカネで解決すれば良いと考えている訳ではありません。計画(BCP)の段階では議論を重ねて十分な備えをし、悪い結果にならないように検討します。最初から諦めてしまうような医療機関はありません。
企業においても、最初から匙を投げるような心構えで居ると、取引先からの信頼を失う可能性があるかもしれません。信頼や信用はカネで解決できるような問題ではなく、長年の積み重ねですので『納品できなかった分は賠償金をお支払いします』という内容のBCPを作ることが、自社にとって不利益にならないか検討が必要だと思います。
コンサルと協働
企業BCPの策定は、コンサルと社員の協働がベストではないかと思います。
自社のことをよくわかっているのは自社の社員です。業界にも明るいと思います。
BCPの勘所を押さえられるのはコンサルタントだと思います。
両者の相乗効果によって、素晴らしいBCPが策定できると思います。
最後に宣伝
弊社では、企業BCPの策定や、策定後のマネジメント(BCM)のサポートを生業としています。
カネで解決できない、休むわけにいかないという医療機関のBCP/BCMコンサルティングで培った独自のノウハウがあります。
さらに、自験例が豊富にあり、エビデンスに基づいた減災・防災を提案しています。
企業BCPでお困りの際は、弊社へご相談ください。