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簡易陰圧システム開発ストーリー | NES’s blog

簡易陰圧システム新規開発

 2020年春、新型コロナウイルス感染症の流行拡大が懸念されている頃、私たちは簡易陰圧システムを独自開発しました。

 ニューヨークではコロナ病床が数万床単位で不足するという最悪のシナリオが示され、その対応策が早々に打ち出されていました。
 一方で日本では、そこまでの悪い数字にはならないだろうという予想が示されていました。

 ただし、軽症や無症状では病院には居られないという事であり、感染の疑いがある帰国者などは自宅待機となることは明確になっていました。

 自宅待機・自宅療養者が家族に感染させないためには、滞在している部屋を陰圧にする必要があると考え、家庭でも使える簡便な陰圧装置を構想しました。

 その開発工程について、以下に述べてまいります。




簡易陰圧システム開発ストーリー

開発サマリー
 ├ 基本構想
 ├ 試作
 ├ 原理モデルと検証
 ├ 基本設計
 ├ 製品初号機
 ├ 商品初期ロット
 └ 商品2号機

ターゲットプライス
 ├ 100万円で複数台
 └ 200万円で5台 

利用シーン
 ├ 開発者の想定
 ├ 医療機関
 ├ 救急外来
 ├ 病棟休憩室
 ├ 発熱外来
 ├ 外来待合室
 ├ 季節性インフルエンザ流行
 ├ 在宅医療
 ├ 介護施設・高齢者施設
 ├ 軽症者・無症状者自宅療養
 ├ 軽症者・無症状者ホテル療養
 ├ 保健室(学校)
 ├ 避難所(学校)
 └ 災害対策本部

Keyword
 ├ COVID-19・新型コロナウイルス感染症
 ├ 陰圧室
 ├ CDC
 ├ HEPAフィルタ
 └ 自宅療養予想(当社独自)




開発サマリー

基本構想

 まずはどのような原理で陰圧を掛けるかということや、どのような部屋を陰圧化するかといったことを想像しました。

 その結果に基づいて、ラフな構想図を描きました。



試作

 基本構想から基本設計に移る段階では、頭の中で設計図を描きながらホームセンターで材料を揃えました。

 買物は1回では終わらず、レシートは数枚になってしまいました。

 やはり、設計図を描いた方が効率的でした。



原理モデルと検証

 最初の試作機は原理モデル。

 この原理で陰圧化が可能であるかを検証しました。

 その検証結果を携えて、医療従事者や販社、設備屋さんなどから厳しい評価を受けました。



基本設計

 検証結果や評価に基づき、基本設計を実施しました。

 木製の試作機は原理モデル・形状モデル・評価モデルを兼用しましたが、明らかになった改善点を基本設計に反映しました。



製品初号機

 ほぼ基本設計どおりに製品初号機が完成しました。

 この装置を使って検証を重ねると同時に、この装置も持って売込も開始し、どのような点が改善されれば調達に至るのかを調査しました。



商品初期ロット

 商品化ができました。

 パンフレット制作や型番決定、価格設定などの作業を並行し、市場にリリースするに至りました。



商品2号機

 商品初期ロットには無かったブレーカーやスイッチの増設、電源ケーブルの延長、脚部の補強などを行った2号機が2020年8月にリリースされました。

 銘板や注意喚起ラベルなども貼付され、それなりに見栄えのする商品に仕上がりました。




ターゲットプライス

100万円で複数台

 陰圧装置のイメージとして、1台100万円超というのが普遍的だと思います。

 私たちは、100万円で複数台調達していただけるようにと考え、工事費等を考慮しても上限で48万円でおさまる簡易陰圧システムの開発を目指しました。

 このターゲットプライスを実現するために、今後もコストダウンを研究し、1千台の普及を目指します。



200万円で5台

 1千台販売の向こう側には、5台で200万円の装置開発を構想しています。

 梱包や発送の効率化、オプション品の共用などにより実現できるように根本からデザインを見直す予定です。

 まだプロトタイピングも行っていない段階ですので、まずは1千台の販売、開発資金の調達を目指します。




利用シーン

開発者の想定

 私たちは以下のようなシーンで利用されることを想定し、開発を重ねてまいりました。

 そして、今でも利用シーン毎の課題を検討し、改善策を提案し続けています。

 感染症の制圧に少しでも貢献したい、私たちの願いを込めています。



医療機関

 『患者』が収容される先として最も想像しやすいのが医療機関です。

 感染症指定医療機関には既に陰圧室が整備されていますが、感染症の流行拡大により病床不足が発生し、他の医療機関にも感染症患者が収容されることが予想されました。

 他の疾患で入院している患者が感染している可能性もあるため、感染症指定医療機関に限らず、すべての医療機関に危機が迫っています。



救急外来

 偶発的に新型コロナウイルス感染症患者を収容することになる医療機関も発生することが予想されます。

 その最たる場所が救急外来です。

 交通外傷や心筋梗塞で搬送されてきた救急患者にPCR検査の結果を待っている余裕はないかもしれません。

 最前線で診療にあたる医療従事者は個人防護具で身を守る必要がありますが、救急外来を陰圧化することで院内への感染症蔓延を防止する効果が期待できます。

取付方法(想像)…窓の少ない救急外来ですが、機材庫や手洗いなどどこかのスペースに陰圧装置を置いて、近くの小窓や換気口からダクトを出すことができるのではないかと考えます。


病棟休憩室

 新型コロナウイルス感染症患者を受け持つ医師や看護師らは、個人防護具の脱着も大きな手間となるため、防護具を付けたまま休憩することがあります。

 病室は陰圧化されていても、陰圧化された休憩室まで用意されている事は少なく、休憩場所に困っている人も現れると予想しています。

 仮設の休憩室に陰圧、私たちの装置が活きやすいシーンではないかと考えています。

取付方法(想像)…排気管を出す窓などがある場所を仮設の休憩室とすることで設置しやすくなると考えます。


発熱外来

 駐車場にテントを張って発熱外来としている映像がニュースなどで流れることがありますが、仮設の発熱外来でも役に立つのではないかと考えています。

 例えばリネン庫やゴミ集積室。
 普段はバックヤードとして使う場所ですが、屋外にも屋内にもドアを持っているため、新たな患者の通行路として開くことができます。

 バックヤードにある空間を発熱外来ブースとして、そこに陰圧装置を設置することで、仮に陽性患者が現れても院内にウイルスが流入することを抑止できる可能性が高まります。
 陽性患者を専門病院へ転送する車が来るまでの間、発熱外来ブースは陽性患者専用として封鎖することも可能になります。

取付方法(想像)…バックヤードの適当な部屋を使う場合、屋外からの入口ドアがあるので、そこにカーテンなどを設置して隙間から排気管が出せるのではないかと考えます。テントで実施する場合は、テントの側幕の下からダクトを出して、隙間は毛布などで目張りすれば良いのではないかと考えます。


外来待合室

 何の診断もついていない患者が溢れる場所が外来待合室です。

 可能であれば診察前と後で待合室を分けることができれば良いのですが、そうしたつくりになっている医療機関は滅多にありません。

 不確定要素が多い外来待合室を陰圧化することで、診察室や医事課などに外来から空気が流入する可能性を低減することができます。
 陰圧装置で一定量の空気を排出することができますので、ある程度の換気も可能になります。

取付方法(想像)…窓があれば窓から出します。無ければ排気管を延長して医事課のカウンターなどからバックヤードを経由して屋外へ導くことができると考えます。


季節性インフルエンザ流行

 1日に10万人規模でインフルエンザの陽性判定が出されている、これは例年のことです。
 陰性判定も居る訳ですから、医療機関には高熱や倦怠感など感染症を疑う患者が殺到していることがうかがえます。

 何の感染症なのか判断がついていない患者が内科や小児科を中心に集まる訳ですが、新型コロナウイルス感染症流行拡大後の国民感情からすれば『私がうつしてしまうかも』『何をうつされるかわからない』と考える人も少なくないと思われます。

 季節性インフルエンザの流行期には、医療機関の規模や標榜科に関わらず、陰圧システムの需要が増えると予想しています。

取付方法(想像)…排気管が出せる場所を患者の居場所とする方法か、外来待合室の項で述べた方法で対処できると考えます。


在宅医療

 在宅医療を受けている患者は、当然ながら何らかの疾患を抱えています。

 在宅という環境ゆえに、患者が接触する人は特定されます。
 それは家族、訪問看護師、ホームヘルパー、宅配業者などです。

 患者と接触する人が媒介者になってしまう場合は避けようがありませんが、宅配業者や工事業者など患者と接触しない人が持ち込むウイルスは、療養室の外、玄関などを陰圧化することで在宅療養者を守ることができます。

取付方法(想像)…住宅では窓が近くにあると思われますので、窓から出す方法が最も簡便だと思います。マンションの玄関の場合は窓がありませんが、来訪者が来た時だけ玄関ドアから排気させることもできると考えます。


介護施設・高齢者施設

 高齢者等の福祉施設では、健康弱者が集団生活を送っているため感染症に対する危機感が高いです。

 季節性インフルエンザの時期になれば毎晩のように誰かが熱発するということもあります。
 2020年以降、こうした発熱した入所者を様子観察する場合でも、他の入所者や接触しないスタッフに感染してしまう可能性を最大限に低減するために陰圧装置が必要になると考えています。

 高齢者施設であれば、どこか1部屋を仮設の陰圧室として、往診や救急車の到着までを過ごしてもらうスペースを確保することで、施設内でのクラスターの可能性を抑えることができます。

取付方法(想像)…窓から排気する方法が考えやすいです。窓には脱出防止用のウインドロックなどを設置し、不用意に開放状態とならないように配慮が必要です。入所者の自室に設置する場合は色々と工夫が必要になるかもしれませんが、相談室や談話室などを一時的に封鎖して陰圧療養室とする場合は、窓がある部屋を選択すればよいと考えます。


軽症者・無症状者自宅療養

 新型コロナウイルス感染症の陽性判定後に自宅療養する人は少なくありませんが、自宅には家族も近隣住民も居ます。

 明らかの陽性である患者ですので、自己を隔離する必要があります。

 療養する自室を陰圧化することで、生活する上で出てしまうウイルスを宅内の他室へ波及することを予防できます。

 トイレや浴室も陰圧化することが可能なため、宅内では陰圧装置と共に生活することで、家族クラスターを抑止することができます。

取付方法(想像)…窓のある部屋で療養することで、窓から排気管を出すことができます。できる限りトイレに近い部屋で療養することで、トイレ⇒療養室⇒陰圧装置⇒屋外という空気の流り、トイレまでを一体の陰圧室として運用できると考えます。


軽症者・無症状者ホテル療養

 2020年4月、ホテル丸ごと借り上げてコロナ患者を収容する動きが全国で散見されました。

 ホテルの窓は小さくしか開きませんが、部屋の大きさも限られていることからアルミダクトを加工すれば窓の隙間でも十分に陰圧化できる場合があります。

 ホテル丸ごとコロナにする場合は、そもそも宿泊フロアに居る人は全員がコロナ陽性患者であるため、陰圧化の必要性は少ないと考えられます。
 仮に部屋を陰圧化する場合、その排気は廊下に出し、廊下の空気を非常階段などから屋外へ出す方法も考えられます。

取付方法(想像)…各室にある小さな窓から屋外にだすことがリーズナブルです。排気管を廊下に出し、廊下全体をダクトに見立てて非常階段などから排気する方法も考えられると思います。


保健室(学校)

 学校で体調不良を訴える場合、行く先は保健室です。

 感染症が疑われる場合、校内クラスターを発生させないためには隔離する必要性もありますが、学校という場で隔離というのも容易ではありません。

 感染症を疑うか否かに関係なく、保健室自体が陰圧化されていれば、少なくとも保健室からウイルスが拡散してしまう可能性は低減できます。
 頭痛や腹痛でも、咳や高熱でも、どのような症状で保健室来ても、皆が陰圧室に居ることになるので、コロナを称したイジメなどに発展する可能性も抑えられるのではないかと考えます。

 保健室は、子供が居るときは常時陰圧、これが新常態となっても良いかもしれません。

取付方法(想像)…学校ですので窓があると思います。保健室は1Fにあることが多いので、窓から排気管を出してしまえば設置はしやすいと思います。ストーブの囲いのように、子供たちが触れてしまわぬような対策は必要になると考えます。


避難所(学校)

 小中学校が避難所として使われることはよくあります。

 これからの避難所は感染症対策も不可避となりました。

 感染症が疑わしい被災者や、そもそも陽性判定を受けて自宅療養中の被災者も居るかもしれません。

 平日は授業がありますので保健室を使う訳にはいきませんので、避難所として利用される体育館等に陰圧室を設け、福祉避難所等への移送前の一時待機場所を確保することが求められていくと思います。

取付方法(想像)…窓がある機材庫や更衣室などを待機場所とすることで、陰圧装置の設置も容易になると考えます。


災害対策本部

 災害時の司令塔となる災害対策本部には新型コロナウイルスに限らず感染源は持ち込まれたくありません。

 本部を陰圧化するとあらゆる方面から菌やウイルスが集まってきてしまいますので、理想的には本部は陽圧化して侵入を防止します。
 現実的には、本部の前室や前面廊下を陰圧化することで、本部の空気は前室へ行き、前室の向こう側にある空気も前室に流れてそのまま排気されます。

 前室の空気は汚れる可能性がありますが、本部の空気はある程度の清浄度を保つことができますので、前室に陰圧装置、検討する価値はあると考えます。

取付方法(想像)…本部に汚染空気が流入しないことが目的ですので、前室や廊下のどこかに装置を設置、ダクトをのばしてでもどこかへ排気すれば良いので、設置の自由度は高いと考えます。



Keyword

COVID-19・新型コロナウイルス感染症

 新型コロナウイルス感染症、国際的にはCoronavirus disease 2019を略してCOVID-19と称されている新興感染症は、2019年末頃より流行が始まり中国湖北省武漢市では大規模な感染拡大が起こりました。

 無症状や軽症の患者も少なくありませんが、人工呼吸器が必要な重症例も多く発生し、数%の患者がお亡くなりになっています。

 季節性インフルエンザなど既知のウイルスは空気中に浮遊しても時間とともに失活するため春になれば流行が収まるといった状況を毎年繰り返していますが、今日現在、COVID-19については詳しい事がわかっておらず、予防ワクチンや治療薬は確立されていません。


陰圧室

 空気感染防御を目的として病室内を安定した陰圧(負圧)状態にして診療を行います。廊下や隣室よりも低圧であるため、空気は圧の高いところから低いところへと流れるために陰圧室からウイルス等が室外へ撒き散らされることがないとされています。

 確実な陰圧隔離を行う場合、病室の陰圧状態を安定させるために前室を設けます。廊下と前室では前室が陰圧、前室と病室では病室が陰圧になるように制御します。圧差は2.5Pa以上がCDCガイドライン上の推奨値です。

 陰圧室は隙間からでも空気を吸い込んでしまうため塵埃をも引き込むため、きれいな空気を供給するためにフィルタ付の給気口を設けます。


CDC

 CDCとはCenters for Disease Control and Preventionの略称で、米国疾病予防管理センターなどと和訳されます。医療従事者であれば『CDCガイドライン』という言葉はよく耳にしています。使い捨て診療材料の交換頻度や、消毒方法などCDCを参考にしていることが多くあります。

[Link] Centers for Disease Control and Prevention (CDC)

[Link] NES: CDCガイドラインについて


HEPAフィルタ

 きれいな空気を供給する上で多用されているHEPA(ヘパ)フィルタには定義があり、JIS規格では『定格風量で粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率を有しており、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルター』とされています。

 当社では『0.3μm』に着目しており、HEPAフィルタが必ずしも有効では無いのではないかという事をお客様にご案内しております。新型コロナウイルスの径は0.1μm(100nm)程と言われておりますので0.3μmの網目であれば容易に通過できてしまいます。ただし、新型コロナウイルスの感染は飛沫感染と接触感染です。飛沫感染するときは唾液などのエアロゾルで飛散した新型コロナウイルスとなりますので、粒径は100nmよりも大きくなり、HEPAフィルタでも捕集できるようになるようです。

 また、『初期圧力損失』という表現があるように、フィルタが目詰まりを起こせば圧力損失は大きくなりフィルタの掃除や交換が必要になります。交換時にはフィルタに捕集されたウイルス等に晒されることになるため十分注意するようご案内させて頂いております。

[Link] JIS B 9908


自宅療養予想(当社独自)

 当社では今後、COVID-19陽性患者の軽症~中等症患者が院外で療養することを予想しています。それは、医療機関の病床が満杯となり、中等症と重症の境界が引き上げられることにより、従来は重症として入院していた患者も中等症として院外で療養する事になることを予想しています。

 そうならないで欲しいとは願っていますが、そのような事態になった際には自宅や高齢者施設、ホテル等でも比較的重い症状の患者を診る事になりますので、少しでもレベルの高い療養環境が即座に提供できるよう今回のような実験を行っています。