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水害編 ~ 中小零細『製造業』のBCP | NES株式会社

 『ウチはBCPなんて要らない』とも言えない企業の皆様に、この記事を読んで頂ければ幸いです。

 多くのモノづくり企業がサプライチェーンのどこかに参画しており、そこが詰まっても、切れても困る人が現れます。

 BCPには短期的な業務継続、中長期的な廃業回避の大きく2種類のものがあります。

 今回は水害や土砂災害にフォーカスを当てて記事を書いて参ります。




水害

 日本国における災害を定義している災害対策基本法に『水害』という定義はありません。

 水害に最も近いのが『洪水』や『高潮』だと思います。水害をもたらす恐れがある災害としては『豪雨』『豪雪』があります。

 洪水はダムの決壊でも起こり得ます。
 豪雨は『集中豪雨』『局地的大雨』といったイメージがあるかもしれませんが、強くはない雨が1週間続いても総量としては異常な値になり、ダムが溢れるかもしれません。

 ダムや貯水池がダメージを受けて洪水をもたらすおそれもあります。

 自然災害にばかりフォーカスするのではなく『水害』や『洪水』という事象にフォーカスする方が良いです。

【参考】災害対策基本法

【参考】ロイター:ロ軍、ウクライナのエネ施設に戦争開始以来最大の攻撃 ダムも被害(2024年3月23日)




操業に支障

 貴社において、操業に支障の出る水害とはどのようなものでしょうか。

 下図のように洪水による浸水が3~5メートルという場所に会社が立地している場合、洪水が発生すれば多くの財産を失う恐れがあります。

 平面駐車場に停めた車は全滅かもしれません。会社の営業車、社員の自家用車、その区別なく浸水する恐れがあります。

 機械類は基礎のしっかりした場所に置くため、高価な装置は1階に集中しているかもしれません。出荷の都合で頻繁に使用する装置が1階にあるかもしれません。浸水が3mを超えれば2階にある装置も浸水する恐れがあります。

宝塚市役所

 下図のハザードマップは埼玉県越谷市の市役所ですが、市役所自体は洪水のハザードはありません。

越谷市役所

 市役所は平面駐車場なのですが、ここに車を停めていても浸水する可能性は低いと考えられます。


 しかし一方で、身動きは取れなくなります。

 周辺は数キロにわたって全方位的に浸水する可能性があります。国道122号線まで6km以上、そこまで車は使えない可能性があります。

 東武線の越谷駅のホームや線路は高架にあるため運行しているかもしれませんが、改札は地上にあるために浸水、駅は閉鎖されてしまって通過駅になっているかもしれません。

越谷市役所

 浸水によって従業員が出社できない可能性があります。勤務中に浸水した場合は帰宅難民になる可能性があります。

 工場であれば、材料の納入ができなかったり、製造したものが出荷できなかったりします。6km先まで、腰まで水がある中をかついで運ぶのか、休業するのか、といった選択を迫られるかもしれません。

 すなわち、操業に影響があるのであれば、自社の建物が無事でもビジネス上の支障があり、水害が脅威となり得ます。




大型ドローン

 前述の越谷市役所の例では、工場は操業を停止することなく、いつもどおりモノづくりができるかもしれません。

 一方で出荷はできない状況に陥ります。

 そのようなときのために数十キロまで運搬できるドローンを保有すれば良いのではないか、と対策を考えたとします。

 ここでのボトルネックは費用対効果です。

 100万円のドローンを購入し、操縦訓練に50万円を費やしたとします。
 洪水で出荷できない期間が何日を超えると、150万円以上の損失になるのか考える必要があります。
 採算度外視であったとしても、洪水になるほどの大雨が降っている中でドローンは飛ばせるのか、洪水ではないエリアまでドローンを飛ばせるのか、といった検討課題が生まれます。




高台移転

 洪水のハザードが少ないエリアに移転すれば問題は解決するかもしれません。

 越谷市でいうと、さいたま市や川口市へ移転すれば東北自動車道や国道122号などを使って物流を確保できます。

 宝塚市で言うと豊中市や芦屋市など市外に出るか、市内であれば北側の山間部へ行けば洪水の可能性は低減されます。

宝塚市役所

 移転すれば洪水については課題が解消されるかもしれませんが、平時の本業に影響はないでしょうか。

 取引先との距離が遠ざかる、従業員を集めるのに苦労する、商工会など業界活動の拠点が変わってしまう、など色々と考えるべきことがあります。




基本は現地

 会社の移転の予定があるときは、せひ防災や防犯も考慮しつつ好適地を探して頂ければと思います。

 一般的には、会社の移転を考えることは少ないと思いますので現地での対策を考えます。

 ここでも創意工夫が必要になります。

 ファブレスやシェアリングエコノミーなど、資産を持たずにモノづくりする方法が多様化する中で、何がなんでも自社で作り続ける必要があるのかを考えます。
 競合ではなく連携先、同じようなものを同じくらいの品質でつくれる会社に製造委託できる体制をつくっておくこともひとつの手立てです。

 金属板の指定箇所に穴を開ける仕事があり、自社で行えば利益率が高い仕事であるが、あえて連携先に委託して相手先の品質を知る、自社の品質基準を知ってもらう機会を設けておくこともBCPとしては重要です。

 弊社がコンサルティングするBCPは目標志向です。
 納品を欠かさないという目標があれば、製造委託でも間借りして工作するでも、工程は何でも良いので納品を目指します。




水害対策

 水害に対して建物を改装するなどの方策は、コンサルタントを雇わずともできることが多いです。弊社も含めコンサルタントにはノウハウやスキルがありますので、雇う価値があると思いますが、ケースバイケースです。

 貴社にお付き合いのある工務店などがあれば、相談すると総合的に提案してくださることが多いです。

 トラックの出入りに支障のない側溝、工場や事務所への浸水をギリギリで防ぐ止水板、敷地内の水を集めるためのピットと排水ポンプなど方法は様々です。

 事務所が1階にあるとしても、サーバなどは上階へ移設することくらいは比較的容易にできると思います。重要なシステムはクラウド化したり、データを会社と社長宅でミラーリングしたり、業務を滞らせないための方策も様々です。

 製造業といっても幅が広いので、貴社にあった対策を考えていく必要があります。




洪水の街で育つ

 筆者の育った街は、1年に1回は洪水になる街でした。

 床下浸水も毎年のように発生するため、住民の多くが『スミチオン』という消毒剤の名称もニオイも知っています。洪水が起こると浄化槽の中身(排泄物)も何もかもが街中に広がります。その水が引いたあと、ウジ虫がわいて、やがてハエが大量発生します。そうならないために、水が引いた日から庭や床下など広範囲でスミチオンを噴霧します。

 台風情報が入ると、自家用車を安全な場所まで退避させることも常態化していました。
 今の時代だと100台以上が路上駐車で切符を切られているかもしれませんが、当時は公道にズラリと自家用車が並んでいました。
 車を退避させなければ冠水し、修理不能になることもあります。

 近所の会社では早々に土嚢を積み上げ、大事な在庫品などは上階へ移したり、ワゴン車に積んで車ごと退避していました。

 ある会社では、床から30cmくらいのコンセントは廃止し、すべてスイッチなどと同じくらい高い位置に変えることで、漏電遮断器の動作を免れていました。

 洪水の街に居る事で、独自のノウハウが蓄積されていきます。弊社にも培ったノウハウがあります。




水道管破裂

 水道インフラの老朽化は各地で課題となっています。

 何万世帯にも配水する水道管が破裂すれば、とんでもない量の水が噴き出します。

 何時間と経たないうちに止水してもらえますが、数十分で道路は10cmくらいの冠水状態になります。

 10cmの冠水でも、道路と高低差がない倉庫や作業場には水が流れ込みます。

 このとき、道路を封鎖しないと通行した車によって波が起きてしまい、水深は10cmでも波は20~30cmの高さまで打ち上げます。波にはエネルギーがあるので、大きな一枚ガラスなどは割れてしまうこともあります。

 とりあえず110番と119番、それから水道局という順番が近隣の人々にとっては良い結果となるかもしれません。


 ハザードマップで問題のないエリアであっても、このような偶発的な洪水は起こり得ます。




水害BCP

 水害BCPを策定する際の脅威は水害です。

 目標は製造や出荷かもしれませんし、工作機械や在庫品を守ることかもしれません。個社の考え方があります。

 基本方針として、自社への浸水を許容するのか否かがあります。クリーンルームを有するような半導体や化粧品などをつくっている業態では、もし工場内に浸水してしまえば復旧の期間も費用も膨大になりますので浸水を許容しません。
 出荷の都合があるので倉庫は1階に置くので浸水を甘受、製造ラインは2階以上に配置して浸水を許容しないという場合もあります。そのために1階に食堂やショールームなど業務継続に支障のない機能を移転することもあります。

 被害想定は前述の浸水と並行して考えます。自社だけでなく周辺道路や取引先にまで及んで検討することが多いです。

 平時の対策については個別に検討します。

 発災後の対応についても個別に検討します。

 これらをまとめて冊子化します。
 少なくても20ページほど、多いと50ページほどになると思います。

 仕上げるまでにかなりの労力が必要になります。
 本業と並行しながら策定となると、BCPが仕上がるまでに台風が来てしまうかもしれないので、コンサルタントに要請することも検討すると良いです。




BCPとは

 BCP(ビー・シー・ピー)とは、Business Continuity Planの略称で、日本語では事業継続計画や業務継続計画などと呼ばれています。

 大企業では事業や業務の停止が広範に影響するためBCPを策定している場合が多いですが、中小零細企業であっても自社の存続、関係者への影響を鑑みて関心が高まっています。

【参考】中小企業庁:中小企業BCP策定運用指針, https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/




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