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地震編 ~ 中小零細『製造業』のBCP | NES株式会社

 『ウチはBCPなんて要らない』と言えなくなった企業の皆様に、お読みいただければと思って記事を書いています。

 2024年は元旦から能登半島地震が発生、新年度に入ってすぐに台湾地震が発生、いずれも津波も発生してしまい、地震と津波の二重苦、さらに孤立地域も生まれてしまい、多様なダメージを与える地震となりました。

 地震は揺れによる直接的なエネルギーだけでなく、二次的、三次的に発生する様々な事象が事態を悪い方向へと導くこともあります。




地震

 日本では災害のど真ん中、災害と言えばこれという位置づけの『地震』は、震度4以下であれば全国で頻繁に発生しています。

 震度5弱では家屋が倒壊したというニュースも流れないくらい、日本の家屋は耐震性に優れています。その背景には、多くの地震を経験して要求される条件が厳しくなっていることがあります。

 耐震化が進む日本であっても震度7は想像を絶するダメージを与えます。




震度5でも業務に支障

 筆者はこれまでに何度か震度5の地震に遭遇しています。

 2001年の芸予地震の瞬間はアルバイト先のマンガ喫茶に居ました。

 数万冊あるマンガのほとんどが床に落ちてしまいました。本棚は造り付けばかり、しかも店舗はオープンしたばかりで本棚も設置して1カ月ほどの新しいものでした。

 これが出荷前の商品であれば梱包し直し、あるいは商品自体を造り直しかもしれません。

 これが工具類であれば、整理し直さないと製造に戻れないかもしれません。

【参考】内閣府:平成13年芸予地震(3月24日15時28分頃)について




機械や什器の固定から

 どのような地震であっても共通して『揺れ』が発生します。揺れそのものによる影響を最小化することはいずれの事業所にも共通して行うべき対策です。




オフロード

 どこの会社でも、道路から敷地に入る際に大きな段差は設けていないと思います。自動車がスムースに入れるように段差ゼロ、あったとしても縁石1つ分くらいでスロープなどを使って乗り越えられる程度の高低差だと思います。

 地震が起きた場合、地盤の違いから会社敷地と道路の間に溝ができたり、高低差が生まれたりします。

 多くの車が10cm以上の段差を乗り越えることが困難、しかもその段差はいつ崩れてもおかしくない自然にできてしまったものであれば、車の出入りが制限されてしまいます。

 この段差を解消するための砂利や土嚢が必要になります。

 自社の敷地であれば、自社で勝手に工事できますが、公道にできた段差などは勝手に修復できません。

 できれば1台、ランクルのようなオフロードを走れる車か、ある程度の段差に対応できる大きなタイヤの付いたバイクを保有していると地震後の機動力が確保できます。

 この車両を何に使うかを考えて置く必要があります。

 納品、集荷、食料調達、従業員送迎、色々と想定できます。




別棟

 もし敷地に余裕がある場合は、イナバ物置のような物でも良いので別棟を持っておくとバックオフィスとして活用できる可能性があります。

 事務処理であればパソコンとプリンタを置いて作業できる程度のスペースで十分だと思います。

 帰宅難民となった従業員の就寝場所としても良いと思います。

 物置であれば1棟20~30万円程度ですので、地震対策の中では比較的廉価であると思います。
 弊社のお奨めは、イナバ物置を買って、社員が建てる、です。建てた経験があれば、地震で損壊してもある程度は修繕できると思います。基礎工事は難しいですが、物置自体はDIYでも建てられるようにデザインされていますので、1~2日、仕事として有志の従業員に頑張ってもらえば良い経験になると思います。




地震BCP

 地震BCPを策定する際の脅威は何が良いでしょうか。

 揺れによる直接ダメージを意識する事は大事ですが、そうなると敷地内のことだけで話が終わってしまうかもしれません。

 もう少し視野を広げるならば、地震による副次的な影響にも目を配ってみると良いです。

 BCP上の目標設定も様々です。
 1日たりとも休業しない目標でも良いですし、何があっても最大6日で復旧、すなわち休業は7日以上にしないということでも良いと思います。

 脅威による影響、被害想定を考えるところがなかなか難しいです。
 ここを甘く設定すれば現実離れして役に立たないBCPになるかもしれないですし、あまり厳しすぎると対策費がかさんでしまったり、従業員の士気が低下したりします。
 費用負担に躊躇するかもしれませんが、コンサルタントを入れた方がリーズナブルかもしれません。

 脅威に対してどのように抗うのか、あるいは受け入れるのか、しっかりと計画します。

 『地震により事務所壊滅』という想定をした上で『第二倉庫を臨時事務所とする』計画を立てて、それに必要な器材などを揃え、訓練を重ねておいても良いと思います。

 弊社ではBCPに沿ったBCM(マネジメント)として、図上演習や実地訓練を推奨しています。臨機応変を個人の能力に依存するのではなく、疑似体験などを通じて多様な考え方を身に付け、さらには新たな技術も習得してもらい、対応力を高めていきます。




図上演習とは

 将棋や囲碁のようなルールはありません。

 実際に起こり得る事象をコントロール班が提示します。

 例えば『強い揺れを感じたあと、天井から大量の水が落ちてきています』というシチュエーションに、プレイヤーはどのように対処するのか、それぞれが『今』思いつく行動を口に出したり、紙に書いたりしてシミュレーションしていきます。

 なぜ、そのような行動をしたのか、その結果はどのようになると思うのか、といったことのディスカッションも含めて図上演習です。

 災害が起きたあとの行動に正解はありません。そのとき出来た行動が結果でもあります。
 ただし、後悔する事はありますので、実際に起きてから後悔するのではなく、疑似体験の際に後悔しておいて、本番では自身が納得できる行動をすることが大事です。




図上演習:火災で窓を開ける?

 小学校の避難訓練で『火事になったら窓を閉める』『地震のときは逃げ道をつくるために窓を開ける』などと指導された記憶をお持ちの方も多いと思います。

 火事になったら窓を閉めることは正解です。

 京都アニメーションの放火事件以降、新たな考え方を許容する消防が現れました。
 火に酸素を与えないことは重要だが、逃げ遅れた人の存在を知るためには、窓を開けて救助を求めてもらわないとわからない、といった意見から火災時でも最小限であれば窓を開けても良いのではないかという考えが生まれています。

 これを社内に実装するために図上演習を実施することがあります。
 京都アニメーションの火災時の映像などを見た方であればわかるかもしれませんが『そこにハシゴがあれば救助できた』と思われるシーンがあったと思います。
 トイレに逃げ込み、ドアを目張りし、窓を開けて救助を要請し、地面に置いてあったハシゴをかけてもらって脱出する、このような成功体験が図上であってもできたとすれば『外にハシゴを置いておきましょう』という提案につながります。

 図上演習とは、このように成功体験も失敗体験もした上で、その人にとってベストな選択ができるためのスキルアップツールです。

【参考】『火災時に窓を開ける』 新指針発表 (京都市消防局)




BCPとは

 BCP(ビー・シー・ピー)とは、Business Continuity Planの略称で、日本語では事業継続計画や業務継続計画などと呼ばれています。

 大企業では事業や業務の停止が広範に影響するためBCPを策定している場合が多いですが、中小零細企業であっても自社の存続、関係者への影響を鑑みて関心が高まっています。

【参考】中小企業庁:中小企業BCP策定運用指針, https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/




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