医療機関や福祉施設の『減災』についてご紹介するシリーズです。今回は『介護医療院』にフォーカスします。

介護医療院の特徴
要介護者に対し、長期療養のための『医療』と、日常生活上の世話『介護』を一体的に提供する施設が介護医療院です。医療を内包した施設系サービスに、生活施設としての機能を併せ持っていることが特徴です。
介護医療院には、医療的ケア者のための療養住環境が在ります。
介護医療院は人員基準からⅠ型とⅡ型に類別されています。Ⅰ型介護医療院は介護療養病床相当、Ⅱ型介護医療院は老人保健施設相当以上です。介護医療院の開設許可は60床以下の療養棟単位です。
人員配置 | 介護医療院Ⅰ型 | 介護医療院Ⅱ型 |
---|---|---|
介護療養病床相当 | 老人保健施設相当以上 | |
医師 | 48対1 | 100対1 |
看護職員 | 6対1 | 6対1 |
介護職員 | 5対1 | 6対1 |
リハビリ専門職 | 適当数 | 適当数 |
薬剤師 | 150対1 | 300対1 |
管理栄養士 | 定員100人以上で1人 | 定員100人以上で1人 |
介護支援専門員 | 100対1 | 100対1 |
診療放射線技師 | 適当数 | 適当数 |
調理員、事務員 | 適当数 | 適当数 |
※.医療機関併設型の場合、診療放射線技師は併設施設との兼務可、調理員や事務員等は兼務や業務委託が可能

経緯
1973年(昭和48年)の老人福祉法改正で老人医療費が無償化され『老人病院』が増加、『社会的入院』の問題となりました。
1983年(昭和58年)に老人病院を医療法上の『特例許可老人病院』とする制度が施行されました。
1993年(平成5年)の第二次医療法改正で『療養型病床群』が創設されました。一般病院における長期入院患者に対応する病床です。
2000年(平成12年)には介護保険法施行され、『介護療養型医療施設』『介護療養病床』が始まりました。
2001年(平成13年)の第四次医療法改正では療養型病床群と老人病院を再編し『療養病床』が創設されました。
2006年(平成18年)の医療保険制度改革により2011年度末の介護療養病床廃止を決定、のちに2017年度末に延長されました。介護療養病床は介護療養型医療施設となり、2018年度より介護医療院へ順次転換されてきました。6年間の経過期間を経て2024年3月末で転換を終えました。

【参考】厚生労働省:介護医療院公式サイト
【参考】厚生労働省:介護療養病床・介護医療院のこれまでの経緯
【参考】厚生労働省:介護療養病床の経緯について
施設
介護医療院の施設基準は以下の通りです。設備や広さなどが規定されており、施設基準を踏まえた防災や減災が求められます。
- 療養室
- 一の療養室の定員は、4人以下
- 入所者一人当たりの床面積は、8平米以上
- 地階に療養室を設けてはならない
- 一以上の出入口は、避難上有効な空地、廊下又は広間に直接面して設ける
- 入所者のプライバシーの確保に配慮した療養床を備える
- 入所者の身の回り品を保管することができる設備を備える
- ナース・コールを設ける
- 診察室
- 医師が診察を行う施設
- 喀痰、血液、尿、糞便等について通常行われる臨床検査を行うことができる施設(臨床検査施設は業務委託可)
- 調剤を行う施設
- 処置室
- 入所者に対する処置が適切に行われる広さを有する施設
- 診察の用に供するエックス線装置
- 処置室は、診察室と兼用可
- 機能訓練室
- 面積40平米以上
- 必要な器械及び器具を備える
- 併設型小規模介護医療院にあっては、機能訓練を行うために十分な広さを有し、 必要な器械及び器具を備える
- 談話室
- 入所者同士や入所者とその家族が談話を楽しめる広さ
- 食堂
- 入所者1人当たり1平米以上
- 浴室
- 身体の不自由な者が入浴するのに適したもの
- 一般浴槽のほか、入浴に介助を必要とする者の入浴に適した特別浴槽を設ける
- レクリエーション・ルーム
- レクリエーションを行うために十分な広さ
- 必要な設備を備える
- 洗面所
- 身体の不自由な者が利用するのに適したもの
- 便所
- 身体の不自由な者が利用するのに適したもの
脅威
介護医療院は、介護施設と同様に日常生活のサポートが必要なだけでなく、経腸栄養など日常的な医療的ケアが必要です。
スタッフの脅威
かつての療養型病床群は長期入院患者を想定して創設されており、その延長線上にある介護医療院では長期入院患者が少なくありません。
積極的な治療は必要ないが、日常的に医療と介護が必要であるため、スタッフの介入が無ければ日常生活を過ごすことが難しいと考えられます。
スタッフの不在や不足は大きな脅威です。
枯渇の脅威
人工呼吸器など生命維持管理を医療機器に依存する患者が居れば、当然ながら電力や医療ガスなどの枯渇も脅威です。
殺到の脅威
新患殺到による診療機能低下は考えづらいですが、災害による負傷者が殺到する可能性は否定できません。外傷治療などができる介護医療院は少ないと思いますので、診療に応じられないと断るだけでもマンパワーを消費します。
新患殺到も、対応を誤れば脅威になり得ます。
プライオリティの脅威
『プライオリティ』(priority)は、介護医療院が恐れておくべき脅威です。
医療を急性期や慢性期、精神科などに大別して関係人口を想像すると、介護医療院は圧倒的に少ない方だと思います。もしかすると自治体の危機管理室員やマスコミが介護医療院の存在すら知らないかもしれません。
救援活動や救援物資の行き先に候補すらされない可能性も含めて『プライオリティ』はキーワードになると考えます。

減災の焦点
介護医療院の減災は、基本的な備えと、長期戦への備えが重要になると考えます。
基本的な備えとはすなわち、企業や家庭でも行われるような備えです。水、食糧、防護具、防寒具などの備えです。バールやロープなどの救助用具なども備えがあると良い品々です。
長期戦への備えは、救援が来るまでの期間、あるいはインフラが復旧するまでの期間、孤立無援でも基本的な備えが枯渇しない程度の備蓄量が在るということです。
阪神淡路大震災や東日本大震災など過去の大きな災害を振り返ってみると、1週間程度で救援が行き渡っています。その頃には電力も復旧し始めています。
ただし、南海トラフ巨大地震は被災面積、被災人口の規模が大きいため、1週間後でも孤立無援が想定されます。
基本的な備えを長期間分、これが介護医療院の減災の基盤になると考えます。

減災実務(想定)
介護医療院に入院する患者層はある程度の想像ができるため、脅威もある程度は想定できます。
ただし、建物の新旧、支出できる費用規模、入院患者に必要な医療的ケアの濃淡など、個別事情もありますので、施設毎の脅威分析は必要になります。
災害を理由に退院や転院を求める場合、患者の引受先を探すことが容易ではありません。
特別養護老人ホームなどの介護施設には医師や看護師が常駐している訳ではない、居るとしても少人数であるため、介護医療院から介護施設へ送ることは容易ではありません。
療養病床を持つ医療機関は類似性がありますが、負傷者殺到などにより急性期病院からの転院も発生するため、優先順位を考えると介護医療院からの患者は引き受けてもらいづらいです。
退院や転院について、十分に検討する必要があります。弊社では、退院や転院がまったくできない想定でのBCP策定、BCM実践を推奨しています。
水や食糧は外部から調達できる可能性がありますが、医薬品や診療材料はなかなか手に入りません。
院内薬局の医薬品の在庫管理ひとつとってみても、減災に資する考え方ができます。エビデンスを求めるならば、統計処理をして、品目毎に最低在庫数を決めていくこともできます。
発電機を備えている介護医療院も多くなっていますが、その燃料備蓄量については厳に評価している施設はどれほどあるのかわかりません。
弊社では、目標設定をした上で、具体的な消費量から適正在庫を割り出しています。

研修・訓練
医療機関やエッセンシャルビジネスに共通して行うべき教育研修メニューを用意しております。
介護医療院に特化した図上演習のシナリオなど、専門的な研修や訓練にも対応します。土砂災害が起きるとどうなるのか、そのとき職員は何をすべきなのか、その行動に必要なツールやスキルは在るのか、座学だけでなく図上演習や実地訓練を通じて院内実装しています。
弊社ではこれまで、介護医療院の基準に関する法律に基づいた研修・訓練を数十回行った実績があります。
研修や訓練はそれぞれ年2回、全従業員に対して行うべきとする法律や通知が出されています。弊社では研修×2、訓練×2、地域住民参加型訓練×1、この年間計画に基づく教育をまとめてお引き受けいたします。

関係法令・通知
(業務継続計画の策定等)第三十条の二
介護医療院は、感染症や非常災害の発生時において、入所者に対する介護医療院サービスの提供を継続的に実施するための、及び非常時の体制で早期の業務再開を図るための計画(以下「業務継続計画」という。)を策定し、当該業務継続計画に従い必要な措置を講じなければならない。
2 介護医療院は、従業者に対し、業務継続計画について周知するとともに、必要な研修及び訓練を定期的に実施しなければならない。
3 介護医療院は、定期的に業務継続計画の見直しを行い、必要に応じて業務継続計画の変更を行うものとする。(定員の遵守)第三十一条
介護医療院は、入所定員及び療養室の定員を超えて入所させてはならない。ただし、災害、虐待その他のやむを得ない事情がある場合は、この限りでない。
(非常災害対策)第三十二条
介護医療院は、非常災害に関する具体的計画を立て、非常災害時の関係機関への通報及び連携体制を整備し、それらを定期的に従業者に周知するとともに、定期的に避難、救出その他必要な訓練を行わなければならない。
介護医療院の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準
2 介護医療院は、前項に規定する訓練の実施に当たって、地域住民の参加が得られるよう連携に努めなければならない。
26 業務継続計画の策定等
厚生労働省:解釈通知, 介護医療院の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準について(平成30年3月22日老老発0322第1号)
- 基準省令第30条の2は、介護医療院は、感染症や災害が発生した場合にあっても、入所者が継続して介護医療院サービスの提供を受けられるよう、介護医療院サービスの提供を継続的に実施するための、及び非常時の体制で早期の業務再開を図るための計画(以下「業務継続計画」という。)を策定するとともに、当該業務継続計画に従い、介護医療院に対して、必要な研修及び訓練(シミュレーション)を実施しなければならないこととしたものである。なお、業務継続計画の策定、研修及び訓練の実施については、基準省令第 30 条の2に基づき施設に実施が求められるものであるが、他のサービス事業者との連携等により行うことも差し支えない。また、感染症や災害が発生した場合には、従業者が連携し取り組むことが求められることから、研修及び訓練の実施にあたっては、全ての従業者が参加できるようにすることが望ましい。
なお、業務継続計画の策定等に係る義務付けの適用に当たっては、令和3年改正省令附則第3条において、3年間の経過措置を設けており、令和6年3月31日までの間は、努力義務とされている。- 業務継続計画には、以下の項目等を記載すること。なお、各項目の記載内容については、「介護施設・事業所における新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン」及び「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」を参照されたい。また、想定される災害等は地域によって異なるものであることから、項目については実態に応じて設定すること。なお、感染症及び災害の業務継続計画を一体的に策定することを妨げるものではない。
- ① 感染症に係る業務継続計画
- イ 平時からの備え(体制構築・整備、感染症防止に向けた取組の実施、備蓄品の確保等)
- ロ 初動対応
- ハ 感染拡大防止体制の確立(保健所との連携、濃厚接触者への対応、関係者との情報共有等)
- ② 災害に係る業務継続計画
- イ 平常時の対応(建物・設備の安全対策、電気・水道等のライフラインが停止した場合の対策、必要品の備蓄等)
- ロ 緊急時の対応(業務継続計画発動基準、対応体制等)
- ハ 他施設及び地域との連携
- 研修の内容は、感染症及び災害に係る業務継続計画の具体的内容を職員間に共有するとともに、平常時の対応の必要性や、緊急時の対応にかかる理解の励行を行うものとする。
職員教育を組織的に浸透させていくために、定期的(年2回以上)な教育を開催するとともに、新規採用時には別に研修を実施すること。また、研修の実施内容についても記録すること。なお、感染症の業務継続計画に係る研修については、感染症の予防及びまん延の防止のための研修と一体的に実施することも差し支えない。- 訓練(シミュレーション)においては、感染症や災害が発生した場合において迅速に行動できるよう、業務継続計画に基づき、施設内の役割分担の確認、感染症や災害が発生した場合に実践するケアの演習等を定期的(年2回以上)に実施するものとする。なお、感染症の業務継続計画に係る訓練については、感染症の予防及びまん延の防止のための訓練と一体的に実施することも差し支えない。また、災害の業務継続計画に係る訓練については、非常災害対策に係る訓練と一体的に実施することも差し支えない。
訓練の実施は、机上を含めその実施手法は問わないものの、机上及び実地で実施するものを適切に組み合わせながら実施することが適切である。
27 非常災害対策
厚生労働省:解釈通知, 介護医療院の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準について(平成30年3月22日老老発0322第1号)
- (略)
- (略)
- (略)
- 同条第2項は、介護医療院の開設者が前項に規定する避難、救出その他の訓練の実施に当たって、できるだけ地域住民の参加が得られるよう努めることとしたものであり、日頃から地域住民との密接な連携体制を確保するなど、訓練の実施に協力を得られる体制づくりに努めることが必要である。訓練の実施に当たっては、消防関係者の参加を促し、具体的な指示を仰ぐなど、より実効性のあるものとすること。
【参考】介護医療院の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準
実務経験とコンサルティング
弊社代表(西謙一)は、病院での勤務経験に加え、4,000床の介護施設を統括する部署の実務経験もあります。
介護医療院での減災・災害コンサルティングは長らくの受注実績があり、現在も継続的に研修や訓練のために訪院しています。
介護医療院のBCP・BCMのコンサルティングは、弊社が得意とする分野の1つです。

ご用命ください
弊社では医療機関や福祉施設などのエッセンシャルビジネス向けの減災コンサルティングサービスを提供しています。
補償金などカネで解決することが難しい、生命や健康、倫理など特殊事情に関わる現場に特化した、専門的なコンサルティングを展開しています。
コンサルタントには臨床経験があります。ある程度は医療用語が理解でき、実務が想像できます。実際、共感を得るような刺さる提案にご好評いただいております。
これまでに国公立病院、民間病院、災害拠点病院、ケアミックス病院、介護医療院など様々なタイプの医療機関で減災のお手伝いをして参りました。社会福祉協議会や訪問看護ステーション、医療的ケア児・者の患家などにも対応しております。
減災について、弊社には独自のノウハウがあります。
