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カナダの臨床工学技士 | NES’s blog

 日本には『臨床工学技士法』があり、臨床工学技士という免許制度が存在します。

 臨床工学技士免状保有者だけが『臨床工学技士』を名乗ることを免許されています。いわゆる名称独占です。業務独占はありません。

 日本臨床工学技士会という職能団体がありますが、そちらでは『医療機器のスペシャリスト』を謳っています。
 医療機器に焦点を絞っているので、『臨床工学のスペシャリスト』『医療系の工学専門家』などではありません。




免許証と仕事は一致?

 『公認会計士ですが企業コンサルをしています』『弁護士ですが企業買収が専門です』という人がたくさん居ます。
 これらは士業としての免許証を必要とする仕事ではなく、士業で培った経験や人脈などを活かすことができるということなので、仮に免許が剥奪されたり、免許制度が無くなっても仕事は続けられます。




医師免許不要

 新興感染症の流行拡大で注目された『ファストドクター』というサービスを提供するファストドクター株式会社の代表取締役(菊池亮)は医師です。

 この会社を運営するために医師免許は不要ですが、代表者は医師です。


 日本では株式会社が保険医療を提供することに法的な壁があるため、診療を提供するのは提携先の医療機関です。

 非常に医療に近い所にあるサービスですが、医師としての知識や経験を活かし、医師免許が必要ない部分までを医師らがカバーするサービスです。




臨床工学技士は?

 職能団体のホームページを見る限りは、医療機器について述べていることが多く、臨床寄りのイメージがあります。

 行政技士や研究者などの仕事を紹介するページは見つかりませんでした。

 トップページからリンクしている先を見ると、バナーも含めて以下のとおりでした。

 何の断りもなく外部サイトが開くバナーも混在していますが、概ね内部リンクとなっています。




カナダの臨床工学技士会?

 『The Canadian Medical and Biological Engineering Society』という団体が在ります。

 日本には日本生体医工学会(Japanese Society for Medical and Biological Engineering)日本医工学治療学会(Japanese Society for Therapeutics Engineering)日本臨床工学技士会(Japan Association for Clinical Engineers)がありますが、それでいうと臨床工学技士会は人(Engineer)であるのに対し、他の2団体は工学(Engineering)であるので、そちらの2団体に近いかもしれません。

The Canadian Medical and Biological Engineering Society

 協会について調べてみると、しっかりした体系ができている学会であることが冒頭で述べられています。

The Canadian Medical and Biological Engineering Society is Canada’s principal society for engineering in medicine and biology. It is a member of Engineering Institute of Canada (EIC) and affiliated with the International Federation for Medical and Biological Engineering (IFMBE). カナダ医用生体工学会(CMBES)は、医学および生物学における工学に関するカナダの主要な学会です。カナダ工学研究所 (EIC) のメンバーであり、国際医療生物工学連盟 (IFMBE) と提携しています。

 EIC(Engineering Institute of Canada)とは、『Canadian Society of Civil Engineers』(カナダ土木学会)として1887年に設立された非営利法人です。
 現在は14の工学系団体の集合体となっています。

 この時点で臨床工学技士会のような職能団体ではなく、日本医療機器学会(Japanese Society of Medical Instrumentation)の方が近いかなと思いました。
 医療機器学会は1923年(大正12年)創立、日本医学会第34分科会として認定されている一般社団法人です。
 ただし、団体名にEngineerもEngineeringも入っていません。
 米国にはThe Association for the Advancement of Medical Instrumentation(AAMI)という団体があり、医療機器学会はそちらと緊密な関係があります。


 カナダにはカナダの文化や法律があるので、わざわざ日本の制度に合わせて考えることがナンセンスかもしれません。




日本との共通点と相違点

 カナダでも医療機器の内部を見る仕事があるのだとわかる記事が掲載されています。

 『What is a Biomedical Engineer?』(バイオメディカルエンジニアとは何ですか?)というページは、法的定義は無いにしても臨床工学技士のような人を紹介しています。


 ここで特徴的なのが、白衣でないことです。

 日本臨床工学技士会のウェブサイトでは、白衣ではない技士の写真はほとんどありません。医療機器の保守管理をするのも白衣を着た人の写真です。


 カナダのバイオメディカルエンジニアの『Duties』、職責とでも訳しましょうか彼らの仕事はこのようにまとめられています。

Biomedical engineers work closely with life scientists, chemists and medical professionals (physicians, nurses, therapists and technicians) on the engineering aspects of biological systems.バイオメディカルエンジニアは、生命科学者、化学者、医療専門家 (医師、看護師、セラピスト、技術者) と密接に協力して、生物学的システムの工学的側面に取り組んでいます。

 日本では『臨床工学技士はメディカルスタッフの一職種であり、現在の医療に不可欠な医療機器のスペシャリストです。 今後益々増大する医療機器の安全確保と有効性維持の担い手としてチーム医療に貢献しています。』と紹介されています。

 感覚的なことですが、日本では『医療に不可欠な医療機器のスペシャリスト』を名乗るのに対し、カナダは『生物学的システムの工学的側面』に職責があると述べ、医療従事者らへのサポートやパートナーシップを謳っています。
 ここには、免許制度があるか否かも関わっていると思いますので、世界で唯一の免許制度である日本の臨床工学技士ならではの表現があると思います。

 カナダとの違いを感じるのは、このあとに続く文章です。

  • design and develop medical devices such as artificial hearts and kidneys, pacemakers, artificial hips, surgical lasers, automated patient monitors and blood chemistry sensors
  • design and develop engineered therapies (for example, neural-integrative prostheses)
  • adapt computer hardware or software for medical science or health care applications (for example, develop expert systems that assist in diagnosing diseases, medical imaging systems, models of different aspects of human physiology or medical data management)
  • conduct research to test and modify known theories and develop new theories
  • ensure the safety of equipment used for diagnosis, treatment and monitoring
  • investigate medical equipment failures and provide advice about the purchase and installation of new equipment
  • develop and evaluate quantitative models of biological processes and systems
  • apply engineering methods to answer basic questions about how the body works
  • contribute to patient assessments
  • prepare and present reports for health professionals and the public
  • supervise and train technologists and technicians

  • 人工心臓や腎臓、ペースメーカー、人工股関節、手術用レーザー、自動患者モニター、血液化学センサーなどの医療機器の設計と開発
  • 設計された治療法(例えば、神経統合プロテーゼ)の設計と開発
  • コンピュータ ハードウェアまたはソフトウェアを医学またはヘルスケア アプリケーションに適合させる (たとえば、病気の診断を支援するエキスパート システム、医用画像システム、人間の生理学または医療データ管理のさまざまな側面のモデルを開発する)
  • 既知の理論をテストおよび修正し、新しい理論を開発するための研究を実施する
  • 診断、治療、監視に使用される機器の安全を確保する
  • 医療機器の故障を調査し、新しい機器の購入と設置に関するアドバイスを提供する
  • 生物学的プロセスとシステムの定量的モデルの開発と評価
  • 工学的手法を適用して、身体の仕組みに関する基本的な質問に答える
  • 患者の評価に貢献する
  • 医療専門家や一般向けのレポートを作成して提示する
  • 技術者と技術者の監督とトレーニング

 カナダでは医療機器にフォーカスするのではなく人工臓器、生体材料、情報システムなど非常に広範な分野を網羅し、研究開発や安全確保など非臨床系の仕事にフォーカスしていることがわかります。

 働く場所については病院以外にも研究所や工場などが挙げられています。

Biomedical engineers work in offices, laboratories, workshops, manufacturing plants, clinics and hospitals. Some local travel may be required if medical equipment is located in various clinics or hospitals.生物医学エンジニアは、オフィス、研究所、作業場、製造工場、診療所、病院で働いています。医療機器がさまざまな診療所や病院にある場合は、現地への移動が必要になる場合があります。




非臨床も獲得

 日本の臨床工学技士は臨床に携わることが王道のようにも見えます。

 確かに、臨床工学技士免状が必要となるシーンを考えると臨床のみです。非臨床の仕事に免許は求められません。

 一方で、臨床の仕事は医療機関数や患者数による上限が見えるのに対し、非臨床は限りがありません。

 研究者に定員はありませんし、研究のネタも尽きません。基礎研究などは大学など学術機関が担うとしても、商品化に向けた開発は企業でも行われます。

 医療機器の安全管理やトレーニングについても需要があり、今後はAIやロボの普及によりエンジニア需要が高まります。
 薬機法で医療機器と定義されていなくても、臨床で使われる物であれば専門的な知見が求められるかもしれません。

 医療費逼迫の中で診療報酬が増えることには期待薄でも、非臨床に業務拡大することで『外貨』のような医業外収入が得られ、臨床工学技士の待遇改善にもつながるかもしれません。




海外から学ぶ、海外へ進出する

 日本臨床工学会のウェブサイトで『English』をクリックすると、なぜか国際委員会のページが開きます。

 臨床工学技士を英語で紹介するのは二の次、海外と連携しますよという意気込みが感じられます。

 残念ながら『What are “Clinical Engineers”?』という部分をクリックするとエラーが表示されるので、日本の臨床工学技士を紹介するには至らないようですが、前面に出るのが国際委員会であることは頼もしいことです。


 海外で働くといくらもらえるのか、日本でもCMでおなじみのIndeedで『Biomedical Engineering Technician』のキーワードで調べてみました。

 ある大学病院でフルタイム、ロケーションペイという勤務地追加報酬も含めて年収63,000~65,000ドルが提示されていました。
 1ドル130円として820万円~850万円くらいです。

 少し敷居を下げて保守要員を『Equipment Repair Technician Biomedical Engineering』というキーワードで調べてみると、50,000ドル前後で仕事がありました。
 ハワイにある『Hawaii Pacific Health』で42.2K~53.4Kということで、年収500万円以上は貰える計算です。




おわりに

 たまには海外の情報を探るのも良いなと思いました。

 日本で働き続けることも良いですが、海外に飛び出していく若者が増えるのも良いことなので、それを後押しできるように、せめて老害にはならないように努めたいと思いました。