カテゴリー
BCP BLOG

ジャニーズ問題から見るBCP | NES’s blog

 今回は、組織の危機管理として、もしジャニーズ問題のようなことが起きた時にどうすべきか、問題が大きくならないようにするにはどうすべきか、検討してみました。

 ジャニーズ事務所をはじめ誰かを敵対的に攻撃するものではありません。
 被害に遭われた方々が、リンク先の記事や映像を見て不快に思うかもしれませんので、クリックする際にはご注意ください。




起きたことは、消せない

 今回のジャニーズ事務所の性加害問題は、創業者が起こしたこと、当人は故人であることなど特殊な部分があります。
 それが犯罪であるか否かは法律の問題としても、喜んでいない人が居るという時点で『被害』は存在していると思います。

 組織の関係者が事件を起こしてしまうことは、故意に限らず偶発的であっても起こり得ることです。
 起きてしまったことは取り消す事ができないので、もしそれが事実であればしかるべき対処が必要ですし、被害者が居れば救済や賠償なども必要になります。

 起きた事は、起きたこととして真正面から対処します。




脅威

 組織の幹部が起こした問題行為が、組織自体に及ぶ脅威について考えてみます。

 BCPの”B” (Business)を中長期的な『事業』とするか、日々の『業務』とするかで視点は異なります。

 『事業継続』と考えた場合、顧客や取引先が離れてしまうと事業が成り立たなくなります。従業者の離職、採用候補の枯渇なども事業の阻害要因になります。

 『業務継続』と考えた場合、問い合わせが殺到したり、マスコミが押掛けるだけでも業務に支障が生じます。誹謗中傷が従業者の心的ストレスになることも業務の障害になりますし、当人については長期的に患うことになるかもしれません。

 問題行為が犯罪であった場合には、オフィスにも家宅捜索が及ぶ場合がありますし、従業者らの事情聴取もありますので、日常業務は停滞し、ビジネスチャンスを逃せば中長期的な業績にも影響することになると思います。




対応が重要

 今回のジャニーズ事務所の性加害問題については、行為をした個人の問題だけでは収まりませんでした。

 その問題の存在を知りながら、あるいは存在している恐れがあると感じていながら、対応していなかった過去から現在にかけての長期的な問題があります。

 BBCや文春の報道、カウアンさんの記者会見などを経ても組織として具体的に対応してこなかった、あるいは対応していることを社会に知ってもらうことができなかったことに、課題があると思います。

 マスコミによる報道は、報道内容の裁量権がマスコミ側にありますので、そこはあまり期待しない方が良いと思います。

 自社のウェブサイトやSNSなどで発表する公式見解や対応状況などが重要になります。




デマや誤認でも対応が重要

 もしマスコミに誤報があれば、誤報である旨を公表することが重要です。
 そこに事実情報を添えて公表しておくと、マスコミは誤報を訂正しなければなりませんので『見解の相違』では終わらせないようにしなければ、被る損害が大きくなる可能性があります。

 デマについては、災害など非常事態の際にも発生するので注意が必要です。

 今回の性加害問題を自社で起きたことと考えた場合、その性加害に及ぶ場所が『会社の経費で借りられたマンションで性加害』といった誤報が流れたとしたら、いかがでしょうか。
 会社で借りているマンションが1軒も無ければ『当社が契約しているマンションはありません』と公表すべきでしょう。
 情報を捻じ曲げて、全社員に支給されている住宅手当が、性加害マンションの家賃に充当されたというマスコミが居るかもしれません。そのような屁理屈への対応は弁護士にも相談するレベルになってくると思います。




人権問題に発展

 ジャニーズ事務所の問題については、男性から男性への性加害が性犯罪であるか否かといった法律の問題よりも、人権問題が大きくなりました。

 最初は『謝罪』『被害回復』『損害賠償』など、揉め事の解決でよく聞かれる内容が並んでいましたが、国連の人権理事会の専門家が動く事態になり、日本の倫理観などについても問題提起されました。
 国連人権理事会専門家は記者会見で『数百人が性的搾取と虐待に巻き込まれるという深く憂慮すべき疑惑が明らかになった』と述べています。


 ジャニーズ性加害問題当事者の会のメンバーに、米国で活動していた人が居たことで人脈がつながり、国連まで動かすに至ったのですが、日本の弁護士会なども人権問題に取り組んでいるので、中小零細企業で起きた事件であって、社会問題化する可能性は十分にあります。

 『○○ハラスメント』といったものの発展形になるかもしれませんが、問題を放置すると人権問題に発展する可能性があります。

 社内でも見解の相違、方向性の違い、意見の衝突などはあると思いますが、双方が平等に発言した上で対峙してしまうことについては、まだ解決の糸口があるかもしれません。
 これが、組織として一方的に押し付けると問題がハラスメントなどの方向へ向かう可能性があります。
 さらに、理不尽なこと、法に抵触する恐れがあることを組織の力で押し付けると、人権問題に寄っていく可能性があります。




人権問題軽視の代償

 数年前、ユニクロや無印良品などが、原料や縫製の製造工程で強制労働などの人権問題があるのではないかと疑われ、様々な対応を求められました。

 不当な対価で働かされている可能性のある工場などが無い事を明らかにしたり、疑わしいところからは仕入れをしていないことを公表した企業もあります。

 もし、このような対応をしないとどうなるのか。
 ユニクロの規模で言うと、国単位での輸入規制がかかり、例えば米国での販売が中止になるという規模の影響があります。

 ジャニーズについては、広告での起用を取りやめる企業が相次ぎました。
 性加害が存在したことをジャニーズ事務所が認める方向に動いたことで、明確に契約解消を公表する企業が増えましたが、疑わしい段階でも広告への起用を懸念する企業は存在していました。

 タレント事務所の売上高はわかりませんが、仮にCM1本で1,000万円の契約、毎月100本の契約があれば10億円、年間120億円の売上が蒸発することになります。




社員に罪はない!?

 ジャニーズの広告契約打ち切りが報道される中で、議論の対象となっていたのが『タレントに罪は無い』という点です。

 まさに、その通りです。

 タレント(社員)に危害が及ぶことが、BCP的にも問題であり、原因となった行為に対し適切に対処すべき理由になります。

 人権問題を抱える組織に仕事を依頼できないという企業間取引の問題なので、まずは組織的に人権問題の解決をすべきです。
 ただし、それには時間がかかるので、取引先の要望をヒアリングして1点ずつ改善していくしかないかもしれません。

 タレント事務所の場合は、社員が商品でもあるので対応が難しいですが、そこに人権問題が存在しない事、仮に人権問題に発展し得る因子があったとしても危害が及ばないための相談窓口や即応チームが存在することなどを明らかにしていくことで、徐々に解決していくことになると思います。

 過去に、吉本興業所属の芸能人が専属契約かエージェント契約かを選ぶという時期がありましたが、もしかするとジャニーズ事務所も同様の動きをするタレントが出て来るのかもしれません。

 タレント自身に落ち度も罪もないので、仕事を続けるための手段として個人別のBCPが必要であると考えます。




ビッグモーター問題

 同時期に中古車販売大手のビッグモーターの問題もありました。

 経営層に絶対的権力があり、犯罪行為に加担させられた従業者が告発したことで始まった問題です。

 ジャニーズ事務所と共通する点として同族企業、大株主が創業家であることです。

 社内体制を刷新し、どれだけクリーンな体制にしても社会から理解を得るのは大変だろうと思います。同族企業であることのデメリットとも言えるかもしれません。

 企業として廃業しないことを最大の目標とし、そこへ志向して動くとすれば、株式公開やM&Aを検討する必要があるかもしれません。

 内部のことはわかりませんが、BCPコンサル的な視点で考えると、M&Aが1つの解決策ではないかと思います。
 また、売上高6,000億円以上とも言われるビッグモーターの場合は、仕入れと販売を分社化しても生き残れるのかなと思いました。




先手を打つ情報公開

 テレビ放送だけ見てもNHK、TBS、テレビ朝日、フジテレビ、日本テレビ、テレビ東京など競合する局が複数あります。それぞれがオリジナルの情報を流し、視聴率を獲得しようとすると公知の事実を伝えるだけでは競争に勝てないと考えてしまう人が居るかもしれません。

 そこで起こるのが情報収集の競争であり、ときには屁理屈などから広まる情報もあります。

 過去の取材や記者会見を検証してみても、悪い事をしてしまった相手に対してはかなりの攻撃的な姿勢で臨まれます。

 記者が使いたい言葉を使わせないために、防御が必要です。

 記者が使わざる負えない言葉を顕わにするために、能動的な情報発信が必要です。


記事執筆中に….

 この時期を書いている最中に、先手を打った議員のニュースが入ってきました。

【参考】Yahoo!ニュース:音喜多駿議員「SNSで先方が投稿されそうな気配だったので」先手を打って事情説明 電車内トラブル明かす(2023年9月13日)




マスコミ御用達のワード

 『意識不明の重体です』を言いたがる報道関係者が多いと、ある医師から聴いたことがあります。

 『心肺停止』の場合は、生命の維持に必要な心臓が動いていないので意識がある訳もないのですが、医師が『心肺停止』と述べたことに対し『意識はありますか?』『重体ですか?』と聴いてくる記者が居るそうです。

 医療では、麻酔をかけて意識を失わせることがあります。筆者も全身麻酔を受けたことがあります。
 医療的に、能動的に意識を失わせているとしても『意識はありますか?』と聴かれれば『意識はありません』と答えることになります。
 『重体ですか?』と聴かれると『手術の結果次第』『意識が戻ればわかる』といった回答にとどまるのではないかと思いますが、どうしても『意識不明の重体』と言いたい記者から『軽症ではないのですね?』と聴かれたりもするようです。

 『意識不明の重体です』を公表する状況に置かれる人は少ないと思いますが、マスコミが使いたい言葉を使わせる方が良いのか、使って貰いたくないのかで、公表の仕方が変わるということにご留意頂ければと思います。




手続きミスが『脱税』

 筆者は税理士を使わずに確定申告をしています。

 その書類作成はe-Taxという国税庁が提供するシステムを使い、自動計算される金額で納税しています。
 解釈が曖昧な部分があれば、納税額が多くなる方を選択して手続きをしています。

 手続きのミスがある場合、大抵が『納税額が多すぎるので還付します』という連絡が来ます。

 国税の方にお聞きしたのですが、納税額が多すぎた場合は手続き上のミスとしてお金が返されるが、1円でも少なかった場合には『脱税』として扱われる可能性がある、ということでした。

 よく新聞記事に『脱税』と出たりします。
 当事者のコメントとして『修正申告を済ませ、既に納付済です』といった主旨の言葉が添えられていたりします。

 報道としては『脱税』がインパクト大です。
 しかしながら、事実としては入力ミスであったり、勘定科目の付け間違いであったり、事務手続き上のミスの可能性もあります。
 税金の手続書類には、最初から修正という項目があります。修正する権利が与えらえているので、国税からミスを指摘されたのであれば、ミスを認めて修正して差額を納税すれば、それで良いとされています。もちろん、悪質な場合には法に抵触します。

 悪質な脱税でないのであれば、『○○の記載を誤ってしまい、××と書いたので指摘され、指摘された日に修正申告しました』というくらい具体的に情報を公開すれば、SNSなどで擁護してくれる人が居るかもしれません。




勤務先でも左右

 最近の報道の中で、児童生徒への性的な行為に関し目立つ報道がいくつかあります。

 1つは、有名な塾の講師によるもので、退職後であっても『元××××講師』と塾の名前が新聞の見出しに付きます。

 他にも、現役の中学校長によるものも、学校名などを付けて報道されています。

 組織的な犯罪ではないにも関わらず、組織の名前が連呼されると、何か悪い事をする組織であると思われてしまうので、このあたりの危機管理も必要になります。




謝罪も重要

 被害者が居る場合、被害者に向けての謝罪は必要です。

 社会全体に対して謝罪する必要があるかどうかは、場合によると思います。

 デマ情報の場合、謝罪の仕方については難しいところです。
 何らかの被害に遭われた方が居れば、その方々への配慮は必要ですが、謝罪の必要性はないかもしれません。

 デマや詐欺などは、起こり得そうなことがわかった時点で注意喚起の情報を流しておくと良いです。
 郵便局のレターパックには赤字で『レターパックで現金送れはすべて詐欺』と書かれています。現金を送ってしまって被害に遭われた方を救済する術は郵便局にありませんが、被害者の矛先が郵便局へ向かないようにするための自衛策であると考えます。




被害者を出さない

 今回の性加害にしても、他の事件にしても、被害者が居なければ問題になりません。

 被害者となる人が現れてしまうような事件を起こさないようにすることが、最も必要なことです。

 もし、被害者を出してしまったときのためにBCPが必要になります。

 BCPは影響を最小限にとどめるためのツールとして策定、それ以前に事件が起こらないための体制整備や教育などを実施する必要があります。




ジャニーズ問題とは?(簡単に)

 いわゆる『ジャニーズ問題』とは、ジャニーズ事務所の創業者であるジャニー喜多川さんによる性加害についてです。

 2023年4月12日、元ジャニーズジュニアのカウアン・オカモトさんが日本外国特派員協会で記者会見したことで大きな話題となりました。


 カウアン氏が記者会見するに至る前に、暴露系ユーチューバーとして逮捕までされてしまったガーシー氏との対談がきっかけでした。

 話題とはなったのですが、当初、テレビでは扱われない話題でした。
 記者会見は4月12日の午前11時から12時過ぎまでで終わったようですが、日本のテレビ放送で初めて扱われたのが4月13日のNHKでした。翌14日にテレビ東京と日本テレビがウェブ上で報じました。
 

 日本外国特派員協会のYouTubeでは、記者会見の様子をライブ配信、その後も公開しています。


 この問題はそもそも、英国のBBCが問題のある事件であるとして取り上げていました。
 カウアンさんも4月12日の記者会見で述べていましたが、日本のメディアでは取り扱われないためBBCの取材に応じ、日本外国特派員協会の記者会見にも至ったようです。


【参考】カウアン オカモト- KAUAN OKAMOTO:【フル尺版】GaaSyy ✕ KAUAN OKAMOTO 緊急生配信動画(2022年11月16日)
※.性加害問題告白の16分55秒から再生

【参考】Yahoo!ニュース:ジャニーズ事務所の性加害問題、NHKに続き各キー局が報道 テレビのニュース番組でも(2023年4月24日)

【参考】Twitter(X):FCCJ, 4月12日(水)11:00-12:00 (記者会見) カウアン・オカモト、 元ジャニーズJr.・ミュージシャン

【参考】NHK:クローズアップ現代, 【性加害問題】“実態を知ってほしい” ジャニーズ事務所 元所属タレントたちの声

【参考】BBC: Johnny Kitagawa: J-pop agency boss resigns over predator’s abuse (2023年9月7日)

【参考】BBC: Johnny Kitagawa: J-pop agency’s new boss Higashiyama also faces abuse allegations (2023年9月7日)

【参考】BBC: Johnny Kitagawa’s sexual abuse: Japan’s worst kept secret(2023年9月8日)




おわりに

 組織を守るためにはBCP(事業継続計画/業務継続計画)が重要です。組織の存廃問題は、関係者の生活にも関わる重大な問題です。

 今回は創業者であり故人でもある者による性加害が、疑いから事実へと移り変わり、それによって顕在化した人権問題が事業の継続に影響を及ぼしていることを取り上げました。

 個人のプライベートなことに首を突っ込むことは難しいですが、職場での優位な立場を利用しているとなれば、組織として対処すべき問題であり、労働基準監督署や警察署などに相談すれば解決の糸口が見つかるかもしれません。

 今回のケースでは被害者として扱われるべき人が100人単位で居るようなのですが、たとえ1人しかいないとしても、ゼロではないので大きな問題です。
 性加害を受けて、その見返りとして仕事を貰っていたとするような主旨の発言をする人も居られましたが、本人が望んで身体を売り対価を得ていたのであれば納得される部分もあるかもしれませんが、口止め料のような形で与えられた仕事は、性質が異なると思います。

 本題は性加害事件ではなく、組織運営の問題です。中長期的には事業が継続し、短期的には業務に支障を来たさないためのBCPについて述べさせて頂きました。

 カウアンさんの記者会見を拝見した所感として、記者の質問はキツいなと思いました。その質問者が、質問者である優位性を使ってキツい事を言ったのであれば、ここにも人権問題が発生してしまいます。
 ジャニー氏の問題を知らずに入所したカウアン氏に対し、本当は知っていたのではないかと質問した記者が居ましたが、その場で本人が知らないと言ったことを否定する必要があるのか、時代背景と年齢を鑑みた検証をしたのか、など疑問に思うところがありました。そのあとのNHKのディレクターがカウアンさんと同年代ということで、当時の中高生が知るような情報ではなかったと発言されて、少し安心しました。

 芸能人であるから冷静に対応できる記者会見であったかもしれません。
 一般の人、会社の社長や総務などが記者会見に対応するとなった場合、厳しい質問に対しても冷静に対応できるスキルが必要であると改めて感じました。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。